客人という名の侵入者が現れたのは、ドレスの試着が終わり、なまえとザンザスが丁度昼食をとり終えた直後のことだった。

城内に緊張感が満ちる中、その侵入者は堂々と正面玄関から乗り込んで来た。
作戦隊長であるスクアーロをはじめとする幹部達が武器を向けてザッと取り囲む。

「相変わらずむさくるしい連中だな」

武器と殺気を向けられているのに侵入者は余裕の表情だ。
こんな修羅場など彼にとっては日常茶飯事だからだ。

「俺のなまえは元気か?」

「うおぉい!誰がお前のだぁ!」

「リボーン!」

階段を駆け降りてきたなまえがリボーンに飛び付く。
それは恋人同士の感動の再会のようでもあり、一気に甘い雰囲気へと変わった。

「元気か?」

「うん!」

来て来て、とリボーンの手を引いて部屋に案内していくなまえを見送ったスクアーロは、「後でどうなってもしらねえぞぉ…」と呟いた。

なまえにとって、この城はザンザスとの新居だ。
自分の身内に愛の巣を見られることに抵抗のある者もいるだろうが、なまえはむしろ嬉々としてリボーンを案内して回った。

「ここが私のお部屋なの」

エレガントなデザインのチェストと猫足のキュリオケースも白。
室内は淡い色で統一されていた。

「最初の頃はお客さん用のお部屋にお泊まりしてたけど、それからはずっとザンザスの部屋だったから。えっちするのも寝るのもザンザスのベッドだったし。あ、それは今もだけど」

「家光が聞いたら血圧が上がって卒倒しそうな話だな」

家庭教師のヒットマンは冷静にそう言って、なまえが出してくれたエスプレッソを飲んだ。

「トイレも日本製で、座る所があったかくなるビデ付きなんだよ」

「…甘やかされてるな」

「うん、私もそう思う」

恥ずかしそうに微笑むなまえを見ながら、想像以上の甘やかしっぷりにリボーンは内心砂を吐く思いだった。
デロ甘だ。

こうなれば、さっさと用事を済ませるべきだと判断したリボーンは、なまえのために作っている途中のドレスをトランクから取り出し、彼女に着てみるように言った。

「動くなよ」

大体は出来上がっていたので、細かい部分をしつけ糸で手早く仮縫いし直していく。
これは、言わば、“披露宴での衣装チェンジ用のドレス”だった。
リボーンからなまえへの贈り物だ。

呪いが解けた今、肉体はもう赤ん坊でなくなったけれども、アルコバレーノとして赤ん坊の姿で過ごした時間に蓄積された知識や経験はそのまま引き継がれている。
勿論、裁縫の腕もだ。

「コスプレは赤ちゃんになってからやりはじめたの?」

「そうじゃなきゃ怖ぇだろ」

「うん…まあ…」

確かにこの姿で女装含むコスプレが趣味というのは色々な意味で怖い。
どこかの霧の守護者もかなりギリギリの感じだが。
ただ骸の場合は、「そういうキャラだからなぁ…」と何故かあまりおかしな事だとは思えないから不思議である。

「もう少しで終わるから動くなよ」

「うん」

そんなことを考えている間にも、リボーンはてきぱきと作業を進めていく。

ちなみに、赤ん坊だった頃に作った衣装はトランクルームに保管してあるらしい。
捨てるにはしのびないが、身近に置いておくのも…という感じなのだろう。
リボーンの複雑な心境が伺える部分だ。

呪いが解けて成長を再び始めてから、誰かのために作る服はこれが初めてだというから、なまえは嬉しくて仕方なかった。



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