ロマンティストの母は、「花嫁さんの白いドレスには沢山の夢と幸せが詰まっているのよ。だから綺麗に見えるの」と教えてくれたものだ。
世の中の既婚者からすると賛否両論ありそうな意見だが、少なくとも、それがお互いに望んで望まれてする幸せな結婚であるならば、確かにそう思えるものなのかもしれない。

純白のウェディングドレスには、母が言った通り、夢や幸せが詰まっているように見えた。

それは言い換えるならば、これから始まる愛する人と歩む人生への希望だ。

「本番までボスに見せられないのが残念ね」

「うん…」

ここに至るまでがまた長かった。

まず最初に、数人のデザイナーをピックアップしてデザイン画を提出させ、その中からコレと決めた一人を選出。
その選ばれた一人がデザインを持ってくる度に、ルッスーリアによる鬼のようなダメ出しが延々と続き、何とか数パターンの候補が決定した段階でようやく花嫁であるなまえに話が来たのだった。
試着に漕ぎつけるまでの関係者達の苦労を思うと、申し訳なくなってくる。

そこからはルッスーリアとの二人三脚だ。

美意識が高く、妥協を許さない厳しさを持ちつつも、ルッスーリアは決してなまえの意見をないがしろにすることはなかった。
試着を重ねることで上手くなまえの意見を引き出し、丁寧に希望を拾いあげてくれる彼は、実に有能なアドバイザーだった。
勝手が分からないなまえにとっては頼もしいかぎりだ。

花婿は式当日までドレスを見てはいけないというのが伝統なのだそうだ。

試着を終えて服を着替えたなまえにジュースとおやつを出し、これからミーティングがあるからと言って颯爽と試着室に戻っていった。

例え式の準備に関わる人間であっても、誰も彼もをほいほい呼び込むわけにはいかない。

そこで、関係者全ての身辺調査が行われ、その中から厳選されたスタッフを選び出して城内での作業を任せることなった。
ドレスにしても同じで、城外で作られた物をそれらのスタッフがチェックして城へ運び込み、城の人間が更にそれを確認してから試着するという形だ。

二度手間、三度手間なのは勿論のこと、スタッフにかかる重圧も相当なものだろう。
それなら、いっそ城の外で場所を借りてなまえがそこへ行って試着してはどうかと聞いてみても、それはダメだという。
表向きは暗殺を警戒しての安全対策だとされているが、「ただなまえちゃんを側においておきたいだけなのよ」とルッスーリアに耳打ちされた。

あるいはそれはなまえを安心されるための方便なのかもしれない。
けれども、なまえを納得させるには充分足りるだけの説得力があった。
来年彼女の夫となる人は、非常に独占欲の強い男だからである。



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