桃源郷のショッピングモールは観光客達で賑わっていた。

「地獄の百貨店でも良かったんですがね。お香さんがこちらのほうが品揃えが良いと言うもので」

鬼灯に連れて来られたのは、ショッピングモールの一角にある呉服屋。
既に話が通っているらしく、鬼灯の顔を見ると店主は「お待ちしておりました」と言って奥へ声をかけた。
すると、女性の店員が二人、白い山のような沢山の着物を抱えてやってきた。

「足袋なども必要でしょう」

「そちらも全てご用意してあります」

「さあ、こちらへどうぞ」

あれよあれよという間に試着室へと連れこまれる。
そのなまえに白無垢を着せ掛けて、女性店員はにこやかに話しかけてきた。

「おめでとうございます。よくお似合いですよ」

「あ…ありがとうございます…?」

わけがわからないままなすがままになっていると、鬼灯がひょいと顔を覗かせた。

「それも良いですが、そちらの刺繍入りのものを着せてみて下さい」

「かしこまりました」

女性店員は恭しく答えてなまえに別の白無垢を着せにかかった。
またもやなすがままだ。

「綿帽子に致しますか?それとも角隠しに?」

「綿帽子でお願いします」

店員と鬼灯のやりとりを聞いている内に、じわじわと実感がわいてきた。

そうか。

自分は花嫁になるのだ。

鬼灯の妻に。

「旦那様の仰る通りですね。こちらのほうがとてもよくお似合いになっていますよ」

店員の言葉にはっと我にかえって目の前の鏡を見ると、白無垢に綿帽子という姿の自分が映っていた。

「綺麗ですよ」

鬼灯の声がして振り返る。

「鬼灯様…」

「よく似合っています」

「あ、ありがとうございます」

心なしか鬼灯の表情が柔らかい。
それが照れくさくてなまえはわざとそっぽを向いた。

「突然だからびっくりしました」

「でしょうね。驚かせるつもりで黙っていましたから」

「もう!鬼灯様!」

「こんな意地の悪い男は嫌いですか」

「〜〜〜またそういう意地悪を仰って…!」

店員がにこにこと見守っているのが余計に羞恥を煽る。

「大好きです」

「私もです」

表情を変えないまま言う鬼灯に、ああ、この人らしいなとなまえは思う。

完全に手の平の上で転がされている。

それが心地よいと感じてしまうのだから自分は相当なドエムかもしれないと思うなまえだった。


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