なまえの朝は早い。
それは隣で眠る鬼灯を起こさないようにして布団から抜け出すところから始まる。
これがまた大変なのだ。
抱き枕の如く鬼灯に抱き込まれていることが多いためである。

今日もなんとか起こさずに抜け出すことに成功し、ほっとしながら自分の部屋に戻ると、まずは軽く身支度を整えて、それから急いで朝食を作りはじめた。
鬼灯の部屋には台所がないため、こうして自分の部屋で作ってから彼の元へ持って行くのだ。

出来上がった朝食を運んで行く頃には、ちょうどよい時間になっていた。

鬼灯はまだ眠っている。

「鬼灯様、鬼灯様、起きて下さい」

「………ん………」

薄く開いた唇から色っぽい声が漏れ、長い睫毛が震える。
覚醒前のこの瞬間が堪らなく好きだ。
いつも隙がないこの人が唯一無防備になる時だから。

切れ長の瞳がゆっくりと開いた。

「おはようございます、鬼灯様」

「…おはようございます」

ふわぁ…とあくびを一つして鬼灯がのそりと起き上がる。
早いですね、と言いながら立ち上がり、鬼灯はそのまま洗面所へ向かった。

その間に運んで来た朝食をテーブルに並べておく。
鬼灯様はすぐに戻ってきた。

「今日の味噌汁は茄子ですか」

「はい、昨日新鮮なものを貰ったので」

顔を洗い、身支度を整えてきた鬼灯がテーブルの前に腰を下ろす。
まだ眠いのか、少しぼうっとしているように見える。
鬼灯が箸を手に持ち手を合わせた。

「いただきます」

「どうぞ召し上がれ」

食べ始めた鬼灯を前になまえも食事をとる。

「今日は出掛けます」

「えっ、お出掛けですか」

「貴女も一緒に来るんですよ、なまえさん」

だし巻き玉子を咀嚼して飲み込んだ鬼灯が言った。

「何処へ行くんですか?」

「そうですね、まずは天国のショッピングモールへ。大体のものはそこで揃うでしょう。それから閻魔殿にも寄らなければ」

お買い物か、となまえは頷いた。
何か買わなければいけないものがあったかと思考を巡らせるが、必要なものは殆ど買い置きしてあるはずだ。
となると鬼灯個人の買い物かと思うものの、それだとなまえを連れて行くというのがよくわからない。

「何を買うんですか?」

「白無垢と綿帽子、後は必要な小物などです」

「えっ」

手から箸がぽとりと落ちた。


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