二泊三日の体験学習の初日の夜。
友人に半ば強引に連れて来られた男子の大部屋は、無数の枕が飛び交う戦場と化していた。


「苗字さん!」

部屋の入口で呆然と立ち尽くしていると、誰かに腕を掴まれて引き寄せられた。
花の香りとともに、水色のパジャマが目の前に広がる。

「ゆ、幸村くん…?」

「危ないよ。早くこっちに来て」

幸村に庇われながら引っ張り込まれた先は、横向きに立てたテーブルと布団を重ねた土手で作られた安全地帯だった。
うつ伏せに倒れたままピクリとも動かないパジャマ姿の男子の横に柳が座っていて、胡座をかいた膝の上にノートを広げている。

「苗字が友人に半ば強引に連れて来られた確率100%」

筆ペンでノートに何か書き込みながら柳が言った。
相変わらずエスパーかと思うような慧眼ぶりである。
今彼が手にしているノートや、自宅に山程保管されていると噂されているその他のノートに記された情報が元になっているのだとしたら、データというものも案外馬鹿に出来ないものだとなまえは思った。

「精市、右から来るぞ」

「ああ、分かってる」

幸村が足元にあった枕を掴んで投げる。
普通の蕎麦殻枕が投げるとドシュッ!と音が鳴るなんて今まで知らなかった。

「ここなら安全だから。苗字さんはここにいて」

こっちに向かって枕を投げようとしていた相手を一撃で仕留めた幸村がなまえに優しく微笑みかける。
なまえは頭を縦に何度も振って頷いた。

よくよく周りを見てみれば、顔面に直撃を受けて倒れる者、遮蔽物を上手く使ってヒット&アウェイを繰り返している者もいれば、ほふく前進で部屋の外へ逃げ出そうとしている者もいる。

一応、半々の人数に分かれて戦っていたようだが、相手側の陣地の人間は殆どが虫の息状態で、決着がつくのももはや時間の問題だった。


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