夜半過ぎに突然降りだした雨は雷を伴っていて、肝心な時には外れるくせに、こんな時だけ的中する天気予報を恨めしく思いながら、私は見事に均整のとれた裸身を惜しげもなくさらしたままの悟くんの懐深くに顔をうずめた。
そうしたところで雷鳴が聞こえなくなるわけではないのだが。
せっかく、さっきまで激しく抱き合って互いの熱に溺れていたのに。
これでは余韻も何もあったものではない。

「なまえは本当に雷が苦手だね」

可笑しそうに笑った悟くんがしっかりと抱き締めてくれたので、少しだけ気が緩んでほっと息をつく。
しっとりと汗ばんだ肌と肌が密着する、えもいわれぬ心地よさ。

「結婚しよ。結婚して」

悟くんが耳元で甘く優しく囁いた。
あまりにも突然過ぎる言葉に思わず耳を疑う。

「僕がなまえを守ってあげる」

「雷から?」

「ありとあらゆるものから」

確かにそれを可能とするだけの力が彼にはあると知っている。
だけど本当に私なんかでいいのだろうか。
私と違って彼には無限の選択肢があるはずだ。

「返事は、はいかイエスしか受け付けないよ」

何だかふわふわとしていて現実味がないまま「はい」と答えれば、悟くんは枕の下から天鵞絨のケースを取り出し、悪戯っぽく笑いながら私の左手の薬指にプラチナとおぼしき銀色に光るリングを嵌めた。

「本当は寝てる間にこっそり嵌めておこうと思ってたんだけどね」

そう言って、私の薬指の指輪に口付ける。
私は雷に怯えていたことなどすっかり忘れて、指輪とそこに唇を寄せている国宝級の美貌に見入ってしまった。
実はこれは夢なんじゃないかと、ぱちぱちとまばたきをする。

「本当に私でいいの?」

「僕が欲しいのはなまえだけだよ。他はいらない」

「でも、五条家の人が納得するかな」

「僕が選んだ妻なのに?反対なんかさせるわけないだろ」

自信満々に答える悟くんの様子からして、五条家は想像以上に悟くんのワンマン体制のようだ。ちょっと気の毒な気もする。
困惑する私の唇に、悟くんはちゅっと優しくキスを落とした。
煌めく青い双眸が私を映している。

「大丈夫、僕最強だから」

いつの間にか雨は止んでいた。


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