美しい花々が咲き乱れる庭園の一角にある東屋。 その長椅子に腰掛けた紅炎の膝の上に座らされたなまえは涙目になって固まっていた。 何しろ相手はこの国の第一皇子だ。 いくら紅炎の目にとまって後宮に召し上げられたとは言え、一介の市井の娘に逆らう事など許されない。 たとえどんなに畏れ多いと萎縮していても、紅炎のすることに異を唱える事など出来ない。 ただじっと身を固めて、されるがままに耐えるしかなかった。 対する紅炎は珍しく表情を和らげて上機嫌だった。 己の膝の上に座らせたなまえは羞恥と緊張に身を固くはしているが大人しく紅炎に抱かれている。 「こ…紅炎さま…っ」 「俺が嫌いか?」 「い、いいえっ、そんなことは……!」 「では、好きか?」 かあっと顔を赤らめたなまえに、ふっと笑い、紅炎はテーブルに用意させた茶と茶菓子を自ら食べさせてやり、時折髪を撫でたりしては額や頬に口付けた。 なまえを抱く手が時折際どい場所を撫で、耳元や首筋を悪戯するように擽る。 ふとした拍子に紅炎の唇がなまえの耳元を掠め、吐息が触れると、なまえはびくっと身体を震わせてしまった。 「ぁ、ん…!」 思わずといった態で漏れた声の艶に、なまえの頬が熱くなる。 紅炎はわざとなまえの耳に直接吐息を吹き込むようにして囁いた。 「どうした?なまえ」 なまえの背筋をゾクゾクとした感覚が這い上がる。 頬から耳元に滑って行った唇が元の道筋を辿り、やがてなまえの唇を捕えた。 最初は軽く触れるだけで離れて行った紅炎の唇が、角度を変えてもう一度、今度はやや強く押し付けられる。 柔らかな唇がやわやわと食むようにしてなまえの唇を刺激し、甘噛みしては不意に強く吸う。 唇とは違う濡れた感触がなまえの唇を這い、びっくりして目を見開くと、至近距離に狂おしい程の熱を湛えた紅炎の双眸があった。 射抜くように自分を見詰めている視線に、なまえは身体中が雁字搦めに絡め取られていくような錯覚に陥る。 絡んだ視線に射竦められている間も口付けは終わらない。 どうやって呼吸していいのか分からず、ずっと息を詰めていたなまえは段々頭の芯が痺れてきた。 唇が緩むと、そこからぬるりと熱く濡れたモノが滑り込んでくる。 何の躊躇いもなく侵入した紅炎の舌が歯列をなぞり、怯えて縮こまるなまえの舌先をくすぐる。 舌を絡め取られて強く吸われた。 「は……ぁ…」 「ゆっくりでいい」 てっきり口付けに慣れろということかと思ったのだが、紅炎の言葉はもっと別の意味合いを含んでいた。 「お前が身も心も俺のものになるまで待とう」 「紅炎さま…」 「それでこそ攻略し甲斐があるというものだ」 迷宮に挑む時のような表情でそう告げた紅炎に、なまえはそう遠くない未来に自分は完全攻略されてしまう予感を感じていた。 |