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僅か数年で中原を平定した極東の大国、煌帝国。
圧倒的な軍事力で周辺国を次々に傘下におさめたばかりか、大陸の北西にまでその勢力を広げ続けている。

その帝都にある後宮の奥まった場所になまえは捕らわれていた。

出入口に鍵はかかっていないが、外には武装した護衛が待機していて、外に出ようとすれば止められる。
第一皇子である紅炎の指示によるものだ。

「また食事を残したのか」

「紅炎様…!」

慌てて礼をとろうとするのを手で遮られ、やんわりと顎を掴んで顔を上げさせられる。

「顔色が悪い」

「だ、大丈夫です」

「今日は俺もここで食事をとる」

「えっ」

見れば、紅炎が入って来た後から侍女が三人、それぞれ恭しい手つきで食事の乗った膳を運び込んできていた。
紅炎が戸惑うなまえの腰を抱いて促し、窓辺の椅子に並んで腰を下ろす。

「何が食べたい。粥にするか?それなら多少は入るだろう」

「は、はい…」

匙で掬って差し出しそうな様子に押されて、なまえは渋々粥に手を伸ばした。
大人しく食べ始めたなまえを見て、紅炎も箸を手にする。

暫く黙々と食べていたが、ふと気づくと、紅炎がこちらに眼差しを注いでいた。

「白雄の事でも考えていたか」

「!」

さっと顔が青ざめたのが自分でも分かった。

「あ、あの…」

「気にするな。無理もないことだ。あんな事があったのではな」

──あんな事。
炎に巻かれて息絶えた白雄を思い、なまえは項垂れた。

だからこそ、お前をここから出すわけにはいかないのだと紅炎は言う。
危険だから、と。

白雄となまえは乳兄弟だった。
白雄の乳母がなまえの母親だったのだ。
立場や地位こそ違えど、二人は兄弟のように仲良く育った。
なまえにとって白雄は兄も同然の存在だったのだ。

何者かの陰謀により、白雄が弟と父である先帝と共に命が奪われた後、なまえは乳母であった母とともに故郷に帰るつもりでいた。
しかし、新たに第一皇子となった紅炎がなまえを妻とすると宣言したために、それは叶わなかった。

「いつになったらここから出して貰えますか?」

夫である男を見上げて問うが、答えを貰えぬまま強引に唇を塞がれた。
唇をこじ開けて入ってきた猛々しい舌先に舌を絡め取られる。
力強い雄そのものの激しいキスに、頭の芯がぼうっとしてしまう。

「んん…」

赤い髪が視界の中で揺れ、首筋に埋められた男の頭を抱きしめるように腕を回す。
いつの間にか侍女達は退室していた。

「痩せたな。もっとしっかり食べて肉をつけろ」

なまえを軽々と抱き上げながら紅炎が告げる。

「俺の子を孕んで貰う、大事な身体だ」

閉じられた鳥籠の中で、長い夜が始まろうとしていた。


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