非常にマズイ事態に陥っている。 朝、目が覚めて自分の置かれた状況を把握した瞬間、私は今すぐこの場から逃げ出したくなった。 今居る場所は見知らぬ部屋のベッドの上。 長身痩躯、眉目秀麗を絵に描いたような黒髪の青年が隣で眠っている。 猫のような印象を与える瞳は今は閉じられていて、微かに寝息が聞こえる。 名前は折原臨也。 私の小学校の時のクラスメイトで、昨夜仕事帰りに新宿に飲みに行って偶然再会したのだ。 今は新宿で情報を扱う仕事に携わっているらしい。 問題は、彼も私も全裸だということだ。 シーツをめくって確かめたから間違いない。 よく見れば、昨夜着ていたはずの衣服が床に落ちていたり、椅子の背に掛けられたりしている。 (……どうしよう……何も思い出せない) 飲んでからの記憶が全くない。 おかしな飲み方をした覚えはないのだが。 こんな事は初めてだった。 とりあえず服を着ようと、シーツの中からそっと抜け出す。 幸い臨也くんはまだ眠っているみたいだし、さっさと服を着て出ていこう。 そう決めて床に足をついた途端、足の付け根から何かが流れ出す感触があり、背筋がぞわっとした。 太ももを伝い落ちていくソレは──ああ、そんな、馬鹿な!なんてこった…! 「はい、ティッシュ」 「あ、ありがとう…」 背後から渡されたティッシュを受け取り、足と根元を拭き取る。 ちょうどベッドサイドにあったゴミ箱にそれを捨ててからようやく気がついた。 ギシギシと身体が軋むような錯覚を覚えながら振り返ると、ベッドに片肘をついた臨也くんがにっこりと微笑んでいた。 「何をしようとしてたのかな?」 「ト、トイレに…!」 「へえ、そう?俺から逃げようとしてるのかと思った」 臨也くんの笑顔が怖い。 にっこり微笑んでいたのが一転して、猫のように瞳を細めて唇の端を吊り上げるようにして笑っている。 「偶然じゃないよ」 「えっ」 「全部俺が仕組んだんだ。昨夜なまえが新宿に来ることも、“偶然”再会した俺とこうなることも。全部ね」 臨也くんが言った。 「俺から逃げられると思った?駄目だよ、逃がさない」 何のために中に出したと思ってるんだい、と笑われて身体がゾクゾクしてどうしようもなく震えた。 「おいで」 ベッドに片肘をついた姿勢のまま臨也くんが私を呼ぶ。 柔らかい声音で発せられたそれは逆らうことの許されない命令だった。 ふらふらとベッドに逆戻りした私を再びシーツの中に引き入れて。 臨也くんがシーツの上から私のお腹を優しく撫でる。 「最初は君に似た女の子がいいな」 |