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ケセドニアへと向かう砂漠を横断していた時に、ふと感じた既視感。
それを確かめようと、なまえは前を歩くジェイドの姿に目を凝らした。

彼の白い額には汗一つ見当たらない。
いつもの涼しい表情のまま、砂に足を取られることもなく歩いていく。
流石軍人と言うべきか。
しかし、なまえが感じたのは、むしろもっと──

「なまえ。どうかしましたか?」

背後を歩くなまえのほんの少しの遅れを感じ取ったジェイドが振り返る。
それで、ようやくなまえは先程の既視感の正体を悟ったのだった。
さらりと流れる髪の色は違うけれど。
こちらの心を見透かすような瞳の色は違うけれど。

「……似てるんだ」

思わず呟いていた。
ジェイドが怪訝そうな顔をするのも構わず、なまえはうつむいた。
一気に押し寄せてきた記憶に涙腺が緩みかける。

「どうしました? 気分が悪いのですか?」

「いいえ……いいえ、大丈夫です。何でもありません」

(──  さん……)

心の中で名前を呼んで、ここではない世界にいるはずの大切な人の顔を思い浮かべる。
いつかは戻れるのだろうか……?
彼の元へと──

「なまえ、手を」

ふと、恋情とも郷愁とも呼ぶべき切ない感情に支配されていた脳に、ジェイドの声が飛び込んできた。
そのまま片手を掴まれ引き寄せられる。
ぐるりと視界が巡って、青空をバックに端正な顔がなまえを覗き込んだことで、彼に抱き上げられたのだと気が付いた。

「えっ、あの、大佐っ?」

「無理をして倒れられても困りますからね。少し大人しくしていなさい」

普段は年寄りを自称しているくせに、抱き上げている腕は酷く力強い。
女一人の体重を抱えて全く揺るぎもせずに歩き出すジェイドに、なまえは再び赤屍の姿を重ねていた。

「…貴女の世界に」

歩きながらジェイドが言った。

「こうして貴女を抱き上げて運んでくれるような誰かがいたのですね」

「! どうして……」

「わかりますよ。顔を見れば、ね。私を見て懐かしそうな顔をしていたでしょう」

ピジョンブラッドの色をした瞳がゆらりと揺らめいたように見えたのは、砂漠の熱気にあてられたせいだと思いたい。
でなければ、これは非常に危険な兆候であるように思えたので。

「元の世界に帰りたいですか?」

「もちろんです!」

「では、もしも帰る方法が見つからなかったら?」

どうしてそんな意地悪を言うのかと、なまえは心細さを露にしてジェイドを見上げた。

「どうして…どうしてそんなことを聞くんですか?」

「さあ? 何故でしょうねぇ?」

「おおーい、ジェイド、なまえ!なにしてんだよ、早く来いって!」

ルークの声が遠くから呼びかけていた。
どうやら他の仲間達は中継地点であるオアシスに着いたようだ。

「貴女を帰したくないからだと言ったら…どうします?」

目の前の赤がすうっと細められて、背筋を冷たい何かが走り抜ける。

「私は、貴女が私を通して見ている誰かを殺してしまいたいですよ」

帰る場所は、この腕の中だけでいい。



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