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Amor magister est optimus.
(愛は最良の教師である)


「嘘だろ?」

格納庫で機体をチェックしていたロックオンは、『同僚』を振り返って驚きに目を見張った。
彼は先ほど、この中性的な美貌の持ち主に、恋人のなまえとはうまくやっているのかと尋ねたのだが、返ってきた返答の内容に納得がいかなかったのだ。

「お互いに好意を持っている男女が四年間も寝食を共にして、何もないわけないだろうが!」

「それどころではなかった」

なまえと自分の関係を侮辱された気がして、ティエリアは憮然として言い返した。
そこまで驚くようなことかと訝しく思わずにはいられない。
この四年間、ティエリアはソレスタルビーイングの再建に力を尽くしてきた。
生死不明となった二名のマイスターの捜索、物質の供給源の確保、新たな機体の製造……、などなど、プトレマイオスとともに仲間の半数を失い、文字通り一からの出直しである以上、やるべき事は山積していたのだ。
なまえはそんなティエリアをよく支えてくれた。
彼女には心から感謝している。
仲間としても、一人の女性としても、なまえはティエリアにとって誰よりも大切で必要不可欠な存在だ。
それを目の前のこの男にどう説明すれば解って貰えるのか…。
ティエリアは少々苛立ちながら言葉を探した。

「男女の愛情について知らないわけではない。精神的な結びつきという意味でならば、この四年の間に彼女との絆はより強固なものとなって──」

「いやいやいや、待てって」

ロックオンはティエリアの説明を遮って彼の肩に自分の腕を回した。
親しい男同士が秘密を打ち明ける時のように、顔を寄せて真面目な口調で諭しにかかる。

「いいか、生物ってものはな、命が危険に晒された時にこそ種を遺そうという本能が働くものなんだよ。人間も同じだ。明日をも知れない状況だからこそ、愛を交わしたくなるものなのさ」

「…確かに理にかなってはいるが……」

「だろ? そういうもんだって。なまえもきっと待ってるぜ、だから今夜あたり──」

「ロックオン!!」

格納庫がビリビリと振動するのではないかと思えるほど、愛らしいけれど迫力のある声が響いた。

「ティエリアにおかしなこと吹き込まないで!」

猛然と駆け寄ってくるなまえを見て、悪戯が見つかった子供のような顔をしたロックオンは、「おっと」と笑いながらティエリアから離れた。
そのままの勢いでさっと身を翻すなり、片手を上げて逃亡する。

「じゃあな、ティエリア。頑張れよ!」



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