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現在の仕事場は、襲撃されて失ってしまったMSWAD基地に比べれば格段に狭くなったものの、なまえの仕事に差し障りはない。

どんな場所であろうと自分の仕事をこなす。
プロフェッショナルとはそういうものだ。
ここで求められているのは、愛嬌のある可愛い女ではなく、臨機応変に行動出来る腕の良い技術者なのだから。
それに、中途半端な仕事をしては、自分を助手として推薦してくれたカタギリに申し訳が立たない。

それなのに、とんだ邪魔が入りそうだ。

「やあ、なまえ」

「上級大尉殿…」

「グラハムと呼ぶように言ったはずだ。今日も美しいな」

グラハム・エーカー上級大尉。
あどけなさの残る顔立ちは童顔といってもいいほどで、二十代後半という年齢にはとても見えない。
整った甘いマスクはさぞかし女性にモテるだろうと思わせた。

「そういう台詞は言われて喜ぶ女性に言って下さい」

「つれないな」

言葉とは裏腹に、グラハムは大してダメージを受けていない朗らかな声で言った。
敵は手強いほど攻略し甲斐があるというものだ。
俄然、口説く言葉にも熱が入る。

「だが、私はしつこくて諦めが悪い」

「ええ、よく知っています」

なまえは作業の手を休めぬまま、きっぱりと言い切った。

「諦めが良かったら、このフラッグはこんな無茶な酷使のされ方をしていないはずですから」

さすがに耳が痛い。
グラハムは苦笑した。

愛機がどんな状態にあるかは、それに乗る彼自身が一番よく理解している。
操縦者に凄まじいGがかかるということは、すなわち、機体にそれだけの負荷がかかるということなのだ。
カタギリとなまえがいなければ、今頃彼の愛機はとっくに使い物にならなくなっていただろう。
だが、今はその事はいい。
別の問題を解決するためにグラハムはここへ来たのだ。
彼は一本気で一度のめり込むとそれにまっしぐらに向かう性格である。
そして彼は我慢のきかない性格だった。

「きゃっ!?」

突然抱き上げられたなまえは小さく悲鳴を上げた。
生憎、近辺には乙女の危機に駆けつけてくれそうな人物はいない。
一人きりで残って作業をしていたことが仇となった。

「私は我慢弱い。そう言ったはずだ、なまえ。今日こそは返事を聞かせて貰おう」

「い、いえ、あの…」

「イエスか、否か。はっきり答えてくれ」

「あ、う、」

「私のモノになってくれるな?」

「は…い、いえ…」

「“いいえ”?」

グラハムの眉が吊り上がった。

「いえっ!はいっ!」

反射的に答えてしまってから、なまえはしまったと己の口を手で塞いだが、もう遅い。
上級大尉はユニオンの澄み渡った青空の如く晴れやかな笑顔を浮かべていた。

「ありがとう。君に感謝を!必ず幸せにすると約束しよう!」

宣言したグラハムがそのまま歩き出したものだからなまえは慌てた。

「あ、あの、何処へっ!?」

「私の部屋だ。君の部屋でも構わないが」

「こ、困ります!」

「心配は要らない。カタギリには君は明日休ませると確約を貰っている」

なまえは心の中で思いつく限りの言葉で上司を呪った。
童貞のまま好きな女に裏切られてぶち切れて暴走するとか、とにかく自分をグラハムにあっさりと売った上司がとんでもなく酷い目に遭いますようにと。

そんななまえの内心などつゆ知らず、上級大尉は上機嫌で彼女を抱えて部屋に向かったのだった。



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