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思ったよりも普通だったというのが正直な感想だった。

一族の中で語り継がれている逸話を考えれば、もっと、こう、子宮責めだとか、常人には想像もつかないような奇抜でえげつないやり方を試されるのでは…と心配していたのだが。

「ありがとうございました」

「いえいえ、どういたしまして。御粗末さま」

その辺に脱ぎ散らかされていた白い襦袢を裸の身体に着直し、きちんと正座して頭を下げると、こちらはまだ全裸のままうつ伏せに寝そべっていた男からニヤニヤ笑いとともに皮肉げな返事が返ってきた。
朱星ノ皇子は布団の上に頬杖をつき、子供がそうするように長い足をぶらぶらと上下に動かしている。
黄川人の時に比べて体格こそ男らしく成長してはいたものの、そうした仕草は童子のようだ。
子供の無邪気な残酷さと大人の狡猾さを併せ持った不思議な人だとなまえは思った。

「えっ?帰るの?」

「えっ?」

立ち上がったなまえを怪訝そうに見ていた男が突然ガバッと身体を起こす。

「どうして。一月は戻らなくてもいいことになってるんだろ?ここにいなよ」

「いいんですか?」

「よくなきゃこんな事言わないサ。君がいたほうが退屈が紛れる」

ほら、と手を引かれ、元通り布団の上に座り直しながらなまえは首を傾げた。
これはもしかしてデレられているのだろうか?
──いや、言葉通り単に退屈なだけだろう。
暇つぶしに最適の相手というわけだ。

「天界の生活はそんなに退屈なんですか」

「まあね。神さまってのも楽じゃないんだゼ」

胡座をかいて座った皇子は、わざとらしくため息をつきながらぼやいてみせた。

「あれはするな、これもするな、って口煩く言うわりには、つまらない仕事ばかり多くてまいるよ。母さん達の目を盗んで君達のとこに遊びに行くのが唯一の息抜きなんて泣けるだろ?それに比べて姉さんときたら…」

「周りは鬼に囲まれてますけど、畳と囲炉裏があって居心地が良さそうな部屋で寛いでましたね。私達が来たのを見て後ろ手に蜜柑の皮をぺっと投げ捨てたところを見ると、私達が来る直前までお茶を飲みながら蜜柑を食べてたのは間違いないです」

「ほらな、それだよ!」

皇子はぱしんと己の膝を手で打った。

「なまえ、ボク達の子がそっちに戻ったら、鬼のように鍛えあげてくれよ。あの女の原形が分からなくなるぐらいグチャグチャにボコっていいからサ。ボクの分までしっかり頼むよ」

「はい、気合いを入れてビシビシ鍛えます」

「ああ、いい返事だね。どこまで強くなるか楽しみだよ」

不敵な笑みを浮かべたその顔は、すっきりしたような、満足そうな、そしてどことなく楽しそうにも見えた。

「君たちが大好きサ、嘘なもんか」

甘い声で告げられた言葉になまえは思わず苦笑した。
胡散臭いことこの上ない。

「信じてないね?」

「信じてますよ」

「じゃあ、話もまとまったところで、もう一戦と行こうか」

大江山や地獄で死闘を繰り広げた時と同じ調子で言って、天界最高位の男神はなまえを布団の上に引き倒した。



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