どこまでも果てしなく続く砂漠の中に佇む白亜の城は、まるで孤高の存在である藍染惣右介その人の渇いた心を表しているかのようで、胸が苦しくなる。 「君は私の唯一の理解者だ」 惣右介様はそう言って下さったけれど、本当にそうなのだろうか。 今度こそ理解出来たと思っても、こちらの想像の遥か彼方まで飛び越えていくのが藍染惣右介という男だ。 遠く理解が及ばない、孤高の存在。 だからと言って理解出来ないと諦めるのではなく、常に努力し続けること。 恐らくは、この一点において私は惣右介様に認められている。 では、「これ」はいわゆるご褒美なのだろうか。 「お早う」 硬質な中にも艶のある美声が耳に届く。 咄嗟に両手で顔を隠してしまったので、惣右介様がどんなお顔をされているかは見えなかった。が、含み笑う声が聞こえてきたから笑っていらっしゃるのだろう。 「顔を見せてはくれないのかい?」 「だ、だめです」 「なまえ」 有無を言わせぬとはこういうことに言うに違いない。穏やかで優しいけれど拒否することを許されない響きを持ったそれに、私はしぶしぶ両手を顔から離した。 影が差して、惣右介様の端正なお顔が近付いてきたのがわかり、ぎゅっと目を瞑る。 柔らかな感触が唇に触れ、やんわりと下唇を食まれた。 「つれないな。昨夜、あれほど愛しあった仲だというのに」 何も身に付けていない素肌に惣右介様の大きな手が触れる。 肩の丸みを確かめるように手を滑らせ、鎖骨を撫でた手がそのまま下に降りて胸の膨らみを包み込んだ。 そこには昨夜惣右介様が刻みつけた赤い刻印が花びらのように咲いていた。 「なまえ?」 あたたかい手の平に包み込まれた胸をやわやわと揉まれ、ひくりと喉が動く。 「声を聞かせてくれないか」 「お、おはようございます」 瞬間、惣右介様が吹き出した。 「ひどいです……!」 「すまない。君があまりにも可愛らしいので、つい可笑しくなってしまってね」 いつの間にか目を開けてしまっていたことに気付くが、もう遅い。 ずいとお顔を近付けてきた惣右介様のお顔が視界いっぱいに広がる。 茶色の瞳が不可思議な興味を持って私を覗き込んでいた。 「無理矢理攫ってきたようなものだから、嫌われてしまっても仕方がないと覚悟していたのだが」 「そんな、惣右介様を嫌うだなんて、そんなことは」 確かに、あれは攫われたという表現が正しい。 黒い死覇装に白いコート姿で突然現れた惣右介様に連れ去られた私を今頃皆心配していることだろう。 惣右介様に抱き上げられた格好でこの地に連れて来られた私を、新しい部下の人達が驚いたように見ていたことを思い出す。 「虚圏にある虚夜宮という城さ」と惣右介様は仰っていた。 虚圏とは白砂の砂漠地帯がどこまでも続く場所だと聞いていたが、こんな立派な建物があったとは驚きだ。 私のために用意されたという部屋は瀞霊廷にある私の部屋と何から何まで同じに作られていた。 「惣右介様は尸魂界の王になられるのですか?」 「君がそれが最善だと思うのなら」 私は答えに困ってしまった。 講師をしていた惣右介様は、こうしてこちらの真意を試すような話し方をされることが多い。 「惣右介様がなさった様々な改善策は尸魂界に確かな改革をもたらしました。感謝している者も多くおります」 「それらはあくまでも過程による産物に過ぎないよ」 惣右介様が私の頭を撫でる。 「私と来るのならば、もっと先を見なさい。過去ではなく、これなら私が創り出す未来を」 私が頷くと、惣右介様は蕩けるような甘い微笑みを浮かべて私に口付けた。 「それでいい。君は私の唯一の理解者なのだから」 高みを目指しているはずなのに、堕ちていく錯覚を覚えてしまうのは何故だろう。 だからといって、もう戻れはしないのだ。 あの懐かしい安寧の日々には。 |