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「ナタリア、大丈夫? 寒くない?」

「ええ、大丈夫ですわ。なまえこそ、無理はなさらないで」

「私は大丈夫。昔から、暑いのより寒いほうが得意なくらいだから」

気丈なナタリアはケセドニアの暑さにも根を上げることはなかったが、この寒さにもめげる様子はない。
王女だからというよりも、本人の資質なのだろう。
もしかしたら父親譲りなのかもしれないとなまえは思った。

「荷物もあまり多くなかったし、ナタリアも皆と一緒にスパで待ってても良かったのに」

ルーク達はスパ、ジェイドはネフリーに用事があるとかで出掛けていたので、本当は一人で買い出しに行くつもりでいたのだ。
だが、そう言うと、ナタリアは心外だと言わんばかりの顔をした。

「まあ! そんなこと出来るはずがないでしょう? なまえにだけ買い出しを押し付ける訳にはいきませんもの」

「でも、ナタリアは王女様なんだし…」

買い物袋を抱えて雪道を歩く王女なんて、あまり聞いたことがない。

「私と貴女は仲間ですのよ。水臭いことを仰らないで」

きっぱりと言いきったナタリアの言葉で、この話題は終わりとなった。
ホテルに到着したからだ。
互いの肩や髪に薄く積もった雪を払い落とし、きちんと除雪された階段を上がりきった先にある二重扉の中に入ると、冷えた体に暖かな空気が押し寄せてきて、二人はほっと息をついた。

「じゃあ、ナタリア、とりあえず厨房まで着いてきて貰える?」

「ええ、わかりましたわ」

このホテルには、レストラン用の厨房とは別にもうひとつ小さな厨房がある。
レストランを利用しない宿泊客が自由に使えるようになっており、なまえ達も滞在中はこの厨房を借りることにしていた。
厨房に入ると、なまえは早速必要な器具を戸棚から取り出し始めた。
何度も利用しているので、勝手知ったるなんとやらだ。

「本当に一人で大丈夫ですの? 確かに、あまりお役には立てないかもしれませんけど、お手伝いするくらいなら…」

「平気、平気。私こそ、料理以外はあまり役に立たないんだから、これくらいは頑張らないと。美味しい料理作るから、待っててね」

「ええ、楽しみにしていますわね」

ナタリアは食材の入った袋を近くのテーブルに置くと、なまえに微笑みかけ、厨房を出てルーク達の元に向かった。
その後ろ姿を見送ってなまえは腕捲りをする。

「さ、てと。始めるか」

程なくして、厨房には懐かしい感じのする香りが漂い始めた。



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