「天気がよくて良かったね」

「そうだね。日差しが暖かくて丁度いい」

私の膝枕で寛ぐ傑くんが言った。その長身をピクニックシートの上に投げ出して、全身でお日さまの光を浴びている。

「パパ!ママ!あっちに行ってもいい?」

先ほどまで傑くんに遊んで貰っていた娘がはしゃいだ声をあげた。
こうして家族で出かけるのは久しぶりだからはしゃいでいるようだ。

「いいけど、見えるところまでね」

「あまり遠くに行ってはいけないよ」

「はーい」

本当はもう一人一緒に来るはずだったのだが、見た目から性格まで傑くんそっくりな長男は趣味特技が格闘技というところまで良く似ていて、今日は朝から出張帰りの悟くんを捕まえて稽古をつけて貰っていた。

どうやらお花を摘んでいるらしい娘の姿を視界に入れながら傑くんの頭を撫でる。
日差しを吸い込んだ黒髪はほのかに熱を持っていてあたたかく、傑くんも気持ち良さそうに目を閉じている。

「こんな日が来るとは思わなかった」

目を閉じたまま傑くんが言った。

「君がいて、子供達がいて……私はそんな幸せを望んではいけないと思っていたから」

学生時代、ある任務で村人を皆殺しにしかけた事件のことを考えているのだろう。
結果として双子の女の子は救えたし、誰かの血が流れることはなかったのだが傑くんはずっと気に病んでいるようだ。
傑くんが言いたいことはわかったけど、納得したわけではなかった。傑くんが幸せになってはいけないなんて、そんな酷い話はあってはならない。

「傑くん、傑くんのお陰で私も子供達も幸せだよ。だから幸せでいてはいけないなんて、そんな風に思い詰めないで」

「君はいつも私の欲しい言葉をくれるね」

傑くんの腕が上げられて私の頬を撫でる。

「君が私の側にいてくれて良かった。愛しているよ、私のなまえ」

「私も愛してる」

「わたしも!わたしもパパとママのこと愛してる!」

可愛い声が割り込んできたと思ったら、花束を持った小さな身体が抱きついてきた。

「ありがとう。可愛いお花を摘んできたね」

傑くんが優しく頭を撫でて花束を褒めてあげると、嬉しそうな笑い声をあげた。

「これはパパとママにあげる」

「そっちの白詰草で作った指輪は?」

「これは悟くんの。悟くん、わたしをお嫁さんにしたいんだって」

「なんだって?」

傑くんが私の膝枕から起き上がる。

「ちょっと待っててくれ。悟を始末してくる」

「もう、傑くんてば」

娘と顔を見合せて笑えば、納得いかないといった顔をしながらも傑くんは腕を広げて私達をまとめて抱き締めてきた。
ぎゅうぎゅうと抱き締められて、彼の私達への愛情の深さを実感する。

大丈夫。あなたの大事なものは誰にも取られないからね。


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