「アイス買いに行こうぜ」

任務が無い日曜日の午後。
五条くんがそう言ったので、二人で高専から一番近くのコンビニまでアイスを買いに行くことになった。
だいぶましになって来たとはいえ、まだ外は暑い。出来れば冷房の効いた部屋の中にいたいが、五条悟命令とあらば行かないわけにはいかない。

蝉の鳴き声が響く道を五条くんの半歩後ろをついて歩いていく。
いつの間にかアブラゼミからツクツクボウシに変わっていた蝉の声に、やっと長かった夏が終わるんだなと感じていた。それは同時に呪術師の繁忙期の終わりが近付いていることを示していた。

「なんで隣歩かねえの?」

「えっ、あの、何となく」

五条くんが歩く速度を落としたので、自然と並んで歩く形になる。ちらりと五条くんのほうを見れば、人間離れした綺麗な横顔が目に入った。彼が何を考えているのかいまいちよくわからない。

五条くんは無言のままだ。いつも私をからかってばかりいるのに。

そうして何を話すでもなくしばらく並んで歩いていると、ようやくコンビニが見えてきた。ほっとして中に入るとよく冷えた空気に全身が包まれる。
店内に他に客はおらず、アルバイトらしき男の店員さんが暇そうにカウンターの中に立っていた。

「どれにする?」

「これ」

アイスのコーナーで五条くんが手にしたのはチョコレートコーヒー味のパピコだった。

「傑のやつに、パピコ食ったことないって言ったら真面目な顔で友達いなかったのかって心配された」

思わず吹き出してしまった私を、お前までと言いたげな顔で見た五条くんはなんだかちょっと可愛かった。

「二人で半分こして食べよ?」

「ん」

素直に頷いた五条くんはやっぱり可愛かった。
皆の分のアイスや買い置き用のもカゴに入れてレジに向かう。アイスばっかりになってしまったが、暑いから丁度いいだろう。

会計を済ませてコンビニを出ると、もわっと熱気が押し寄せてきた。この中をまた歩いて戻るのかと思うとげんなりする。

「パピコ食おうぜ」

「えっ、今?」

「うん、今」

ガサガサとビニール袋の中からパピコを取り出した五条くんが外装を破り、あの特徴的な形状の容器を二つに割った。その片方を「ほら」と渡される。
私が先端の部分を切って、開いたところに口をつけると、隣で五条くんも同じようにしていた。
コンビニのゴミ箱に出たゴミを捨て、パピコの中身を吸い上げれば、お馴染みの甘いチョコレートコーヒーの味が広がった。
冷たくて美味しい。

「美味しいね」

「そうだな」

二人でちゅーちゅー食べているところを誰にも見られなくて良かった。いまこの時間を五条くんと私だけが共有していた。そう思うとちょっとくすぐったいような気持ちになった。

あっという間に食べ終えたパピコの空になった容器を手の平の上で圧縮して小さな塊にした五条くんがそれをゴミ箱にぽいと捨てる。

「まあ、悪くなかったな」

五条くんが言った。満足そうに笑って。

「お前と二人で食べたからかもだけど」

そう言って歩き出す。私も隣に並んで歩き始める。

「今度ソフトクリーム食いに行こうぜ。うまいとこ知ってるから」

「うん」

「傑と硝子には内緒な」

並んで歩く二人の手と手が触れ、ごく自然な感じで五条くんに手を繋がれた。
びっくりして五条くんの顔を見上げると、彼はその綺麗な顔に今まで見たこともないほど優しい微笑みを浮かべていた。
こんな五条くんは知らない。こんな、愛しくて堪らないといった感じで私を見つめてくる五条くんなんて。

「お前のこと好きだって言ったら信じてくれる?」


アイス買いに来たのも二人きりになるための口実だったって言ったら?


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