健康のためにもたまには外に出たほうがいいと言って、傑くんが外に連れ出してくれた。ずっと私を軟禁してきた張本人が言うのだからそうなのだろう。

どこかの町の、河川敷。
土手の上に敷かれた道を、傑くんに手を引かれて歩いていく。
見知らぬはずの景色は、でもどこか懐かしく感じられて、もう戻れない幼い頃を思い出して泣きそうになる。
あれから随分色々なことがあって、こんなにも遠くまで来てしまった。

小さな公園に差し掛かったところで、私の手を引く傑くんが、ふっと笑みを漏らした。

「懐かしいね。子供の頃、近所の公園で君とよく遊んだことを思い出したよ」

「傑くんはおままごとにも嫌がらずに付き合ってくれたよね」

「あれは謂わば君との新婚生活の疑似体験だったからね。嫌なはずがないさ」

「そんなこと考えながら遊んでたの?」

「いまも考えているよ」

公園に子供達の姿はなかった。まだ時間が早すぎるのかもしれない。これからお昼頃にかけて賑やかになっていくのだろう。

「悟に勝ったら、私と結婚してくれる?」

突然のプロポーズに驚く私とは対称的に、傑くんはいつも通りに見えた。

「どうして、いまそんなことを言うの……」

「さあ、どうしてかな。急に思ったんだ。悟には渡したくないなって」

急過ぎるよ、傑くん。情緒がぐちゃぐちゃになっている私の手を引いて、傑くんが私をすっぽりと包み込むように抱き締める。
そうして密着した身体から、ドクドクと脈打つ鼓動が伝わってきた。

「傑くん、ドキドキしてる」

「こう見えて、私も余裕がないんだ」

「私のこと、好き?」

「誰にも見せたくない、誰にも触れさせたくないと思うくらいに愛しているよ」

だったらいいかなと思ってしまうほどには、私も傑くんのことが大好きなのだった。

「結婚しよう」

びっくりするくらい甘く優しい声で傑くんが言った。

「必ず悟に勝って君を私だけのものにしてみせるから、君の返事を聞かせてくれないか」



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