高専に呪霊が入り込んだ。
アラートが鳴ったのは最初だけで、結局、発見には至らず。その後、何者かによって装置が破壊されているのが発見された。

「取り憑いた人間に、物理的にも霊的にも同化するタイプの呪霊だ」

元は高専に勤める職員だった人の焼け焦げた死体を前に、夏油先生が言った。
襲いかかってきたのを夏油先生が操る呪霊の火炎によって燃やされたのである。

蘇生措置を試みた硝子さんは、同化されていたその人の腹部にいきなり開いた大きな口に腕を食い千切られて犠牲になってしまっていた。

「既に他にも被害者が出ていると見て間違いないだろう。やつは人知れず仲間を増やしていき、高専を乗っ取るつもりだ」

夜の闇の中、夏油先生が吐く息が白い。
暖房を壊したのも呪霊の仕業のようだ。どうやら熱が苦手らしい。

夏油先生の指示で三人ずつに分かれて敷地内を探してみたところ、高専にいて無事だったのは伊地知さんと私達一年生と夏油先生だけだということがわかった。残念ながら、他の職員や術師の人達はもう……。
二年、三年の先輩達はちょうど日下部先生が引率して高専の外に出ていたから無事だったので、それだけは良かった。

「五条さんの出張中にこんなことになるなんて……いったい、どうやって見分ければいいんですか?」

「幸い、この呪霊は熱に弱いことがわかっている。この場にいる全員の血液を採取して、熱したニクロム線を押し付けてみれば同化されている人間がわかるはずだ」

夏油先生の提案に、皆は困惑しながらも承諾して血液を提供した。
夏油先生がバーナーでニクロム線を炙り、採取した血液に近付けてひとつずつ確認していく。

「なあ、これでほんとにわかるん」

虎杖くんの声に被せて、ピギャアアアア!という叫びが響き渡った。伊地知さんの血液だった。
同時に、伊地知さんの首が千切れ、断面から蜘蛛の肢のような触手が生えてカサカサと這い回る。野薔薇ちゃんに蹴り飛ばされたそれを夏油先生の呪霊が焼き払った。

「そんな……伊地知さんまで……」

ショックを受ける私の肩を優しく抱き寄せて夏油先生が言った。

「どこかに本体がいるはずだ。そいつを見つけて祓おう」

「熱が苦手なら、こういう手もある」

伏黒くんが手にしていたのはダイナマイトだった。倉庫から持ち出したのだろう。

「どうせ敷地内の建物の大半は張りぼてなんだ、爆破すればしばらくの間燃え続けるからデカい松明になるだろ」

私達は手分けしてダイナマイトを仕掛けることになった。

「虎杖と伏黒は向こうね。私達はこっちに行くわ」

「わかった。気をつけろよ」

伏黒くん達と分かれて張りぼての建物にダイナマイトをセットしていく。

「野薔薇ちゃん、こっちは終わったよ」

おかしい。返事がない。

「野薔薇ちゃん?」

急に辺りの静寂が恐ろしく感じられた。

「野……」

どかん、と音がして地面から何かが飛び出してきたのを見て跳びのく。
それは巨大な呪霊だった。あちこちに取り込んだ人間の一部が見えている。
私はダイナマイトのスイッチを押した。
建物が爆破され、降ってきた火の玉が呪霊に降りかかり、耳を覆いたくなるような叫び声が響き渡る。
苦しむ呪霊に更に火炎が襲いかかった。
夏油先生の操る呪霊による攻撃だ。

「夏油先生!」

「無事で良かった。釘崎は」

私が首を横に振ると、夏油先生は私を優しく抱き締めてくれた。

「大丈夫。もう終わったんだ」

「夏油先生……ピアス、外したんですか?」

私の目は、夏油先生の耳に釘付けになっていた。そこにあるはずの黒い大きなピアスがない。

「ああ、ここにあるよ。冷たくて外していたんだ」

呪霊は金属を同化出来ない。だから、同化する時に人間が身に付けていた金属を吐き出してしまうのだと、他でもない夏油先生が説明してくれたことを思い出す。

「私を疑っているのかい?」

夏油先生が儚げな笑みを浮かべて私を見下ろしている。

「もうすぐ夜が明ける。悟が戻ってくればわかるだろう。それとも、その前にあの火が燃え尽きるのが先か」

夏油先生が言った。

「いまは燃えているから暖かいけど、火が消えたらどうなるか……それまで待ってみよう」



ベベン ベベン ベベンベンベンベベベン…


「という感じで終わるんだよね、この映画」

「う……ふえ……五条先生のばかあ!」

「えっ、ひどくない!?」

「どう考えても酷いのは君だろう、悟」

映画が映し出されているテレビ画面に目を向けることが出来ずに、夏油先生の胸に縋りついてわんわん泣く私を、夏油先生が優しく撫でて慰めてくれた。

「よしよし、もう大丈夫だよ。泣かないで」

「夏油先生……ん、んっ」

「傑だけずるい!というか、どさくさに紛れてキスすんなよ、お前!」



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