身体が重怠い。
嫌だな、と思う。お酒を飲んだ翌朝はいつもこうだ。
それにしても今朝は特に酷い。下半身を中心に身体全体がギシギシしている。
というか、二日酔いにしては何かおかしいよう、な……?

「寝かせておいてあげたいのは山々だけど、そろそろ起きないと遅刻するよ」

優しく頭を撫でられながら言われた言葉にぱちりと目を開く。

「げ、夏油さん……?」

「おはよう。シャワー借りたよ。身体は大丈夫?」

シャワーを借りたという言葉通り、夏油さんの長い黒髪は濡れていた。下はズボンを履いているけど、上半身は裸のままで、鍛え抜かれた逞しい肉体をさらしている。

「タ、タオル」

「ん?これでいいかな」

夏油さんが肩に掛けていたタオルを差し出してきたので、私はそれを夏油さんの頭に被せて、コシコシと水分を拭き取った。
ここまでほぼ無意識の行動である。

「ありがとう。優しいね」

タオルの下から夏油さんが爽やかな笑顔を覗かせる。
──て、そうじゃない!

一転して昨夜の出来事を全て思い出した私はベッドの上を右に左に転げ回った。
私は昨日、夏油さんと……はわわ。

「その様子なら大丈夫そうだね」

そんな私を見下ろして夏油さんがクスクス笑っている。

「でも、おはようのキスくらいはさせてほしいかな」

やんわりと押さえつけられ、上半身を屈めた夏油さんにキスをされてしまった。
その瞬間、フラッシュバックする昨夜の記憶。
握り取られた手をベッドに押さえつけられ、激しく腰を打ちつけてくる、美しい獣のようだった夏油さんの姿と、彼に与えられた快感を思い出して身悶える。
信じられない。夏油さんと。あの夏油さんと。

「シャワーを浴びておいで。朝食を用意しておくから」

「あ、ありがとうございますっ」

私は夏油さんから逃げるように浴室に飛び込んだ。
シャワーを頭から浴びて正常な思考を取り戻そうとする。
落ち着いて。大丈夫、これはいわゆる一夜のあやまちというやつだ。夏油さんもワンナイトの相手くらいにしか思っていないだろう。

「着替え、ここに置くよ」

ドア越しに聞こえてきた夏油さんの声にハッとなる。そうだ、着替えを用意するのを忘れていた。
恐る恐るドアを開けると夏油さんはいなかった。その代わりに、クローゼットから持って来たと思われるオフィスカジュアルな上下と、引き出しにしまわれていたはずの下着が置かれていた。ふえぇ……!

夏油さんチョイスの黒いブラとショーツを身に付け、これまた夏油さんがコーディネートしてくれた服に着替えて、そっと部屋に戻ると、ちゃんと服を着込んで髪をハーフアップにした夏油さんににこやかに出迎えられた。

「朝食出来ているよ。食べられそう?」

「は、はい」

ご飯とお味噌汁、焼き茄子に玉子焼き。
日本の家庭の朝ご飯といった感じのメニューが並んでいる。

「味噌汁は本当はしじみがあれば良かったんだけどね。冷蔵庫の中のものを適当に使わせて貰ったよ」

「ありがとうございます」

いただきますをして食べ始めると、夏油さんも向かいに腰を降ろした。
すっと伸ばされた背筋と綺麗な箸使いに育ちの良さが滲み出ている。

「高専にはタクシーで行こう。私も一緒に行くからね」

「は、はい……」

「君は一夜限りの関係だと思っているかもしれないけど、私は本気だよ」

「ふ、ふぇ……」

「これっきりにはさせない。結婚を前提のお付き合いをしよう」

夏油さんが涼やかな目を柔らかく細めて優しく微笑む。
確信犯の笑みだ、と思った。

高専関係者の間では既に私が夏油さんをお持ち帰りしたという噂が広がりまくっていたのだが、そんなこととは露知らず、私はただひたすらこの人の手の平の上で転がされている感覚が恐ろしくて震えることしか出来なかった。


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