ごめんなさい、ごめんなさい、いくら、赤屍さんに脅さ…、頼まれても、やっぱり零さんへ、チョコ捧げます!コマギレにはしないでください… そう心の中で謝りながら零さんにチョコを渡した翌日。 零さんがいなくなった。 誰にも何も告げずに、忽然と姿を消してしまったのである。 あの責任感の強い、愛国心の塊のような人が任務を放棄してどこかへ行ってしまうなんてあり得ない。 風見さんも今朝から零さんと連絡が取れず、公安の人達が行方を探しているという。 私にはある確信があった。 だから、赤屍さんに夕食に招待された時、怖いけれど勇気を出して彼の家に行くことにしたのだった。 「こんばんは。招待に応じて下さって嬉しいですよ」 迎えのタクシーに乗って着いたマンションは、夜の闇の中にそびえ建っていて、赤屍さんに促されるまま最上階の部屋に通された。 「今日は新鮮で上質な食材が手に入ったので、是非貴女に召し上がって頂きたいと思いましてね」 「赤屍さんが作るんですか?」 「ええ。こう見えて料理は得意なんですよ」 アイランドキッチンというのだったか、私には広すぎて落ち着かないリビングダイニングが見渡せる場所にあるキッチンに立った赤屍さんは、水道で丁寧に手を洗っている。 私も洗面所をお借りして手洗いを済ませてから、赤屍さんにエスコートされてダイニングテーブルの前の椅子に座らされていた。 しっかりと丁寧に手を洗う様子が、まるでオペを始める前の外科医を連想させて、ますます不安な気持ちが大きく膨らんでいった。 手を洗い終えた赤屍さんは、鍋からポタージュスープらしきものを掬ってスープボウルに入れている。 どうやら私を呼ぶ前に下拵えから調理まで済ませてあったらしい。 次に赤屍さんはオーブンから塊肉を取り出した。 ローストビーフのようだ。 それを薄切りにして皿に乗せ、クレソンを盛り付けていく。 オレンジ色をしたソースを回しかけて出来上がり。 私の前に料理の皿が並べられた。 「どうぞ召し上がれ」 「……いただきます」 まずはスープから手をつけることにした。 掬って口に運んだそれは、特に変わったところのない美味しいじゃがいものポタージュスープだった。 続いてローストビーフを食べてみる。 「活きが良いのを捕まえて、絞めてすぐ調理したので美味しいでしょう」 「……捕まえた?」 「ええ。通常の食肉と違って筋肉質で脂肪が少ない分、焼き時間には気を遣いましたが、柔らかく食べやすくなっているはずですよ」 私の頭の中に、ある恐ろしい考えが浮かんだ。 打ち消そうとしても、その可能性が浮かんでは消えを繰り返して私を悩ませる。 「本当に、久しぶりに狩り甲斐のある獲物でした。最後の最後まで抵抗し続けたのは見事でしたね」 顔面蒼白になった私を前に、赤屍さんは『狩り』の様子を語って聞かせた。 「おや、どうしました?顔色が悪いようですが」 「あ、あの、このお肉は……」 「ああ、これですか。これは」 その時、どこからか、ドスンと何か重いものが落ちたような音が聞こえてきた。 「やれやれ……あちらもまだまだ活きが良いですね」 ハッとして私は椅子から立ち上がり、音が聞こえてきた部屋へ駆け込んだ。 そこに居たのは── 「零さん!」 身動き出来ないように全身雁字搦めに縛られた零さんが、絨毯の上に転がされていた。 いや、よく見れば傍らにはベッドがあり、どうやら零さんは自らそこから落ちたようだった。 きっと私達の話し声を聞いて、自分の存在を私に気付かせるために行動したのだ。 「待ってて下さい。いまほどきます」 とは言ったものの、ぎっちり縄で縛られているため、そう簡単にはほどけそうにない。 とにかく、まずは口に貼られたガムテープを外すことにした。 「何故来たんだ……!早く逃げろ!」 口を解放された零さんは開口一番そう叫んだ。 「嫌です!逃げる時は一緒です!」 食べさせられたあの肉が零さんのでなくて良かった。本当に良かった。 私は涙ぐみながら零さんを縛る縄をほどこうと努力した。 「帰れると思いますか?」 赤屍さんだった。 いつの間にか私のすぐ背後に立っていた赤屍さんが言った。 「貴女のチョコを食べた彼を、素直に帰すとでも?」 「たかがチョコじゃないですかあ!」 私は怖いやら呆れるやらで混乱しつつも号泣寸前だった。 「降谷くんの目の前で貴女が私に抱かれて下さるというのなら、帰してあげても良いですよ」 「ふえぇ……!」 「ダメだ!その男の言うことなんて聞くな!」 零さんが叫ぶ。 「少し静かにして頂けますか」 赤屍さんがメスを取り出す。 「やめて!零さんに酷いことしないで!」 私はパニックに陥りながら叫んだ。 「では、素直に私の言う通りにしなさい」 「そ、それは」 「服を脱いでこちらに来て下さい」 「ダメだ!やめろ!」 零さんの悲痛な叫びが胸を刺す。 私は 貴女の選択で運命が決まります |