いつものように自宅に帰る途中のことだ。
どこからかお囃子の音が聞こえてきたのは。

こんな時間にお囃子が聞こえるなんて珍しい。
随分遅くまでやっているお祭りもあるんだなと少し興味が湧いた。
そう遠くないみたいだしちょっと寄ってみようと、お囃子が聞こえてくる方向に向かって歩いていく。


──おかしいと感じたのは、それから大分経ってからのことだった。

もうかなり歩いているのに、いっこうにお囃子の出所に辿り着かない。

それどころか、いつの間にか左右を竹藪で挟まれた薄暗い道に迷い込んでしまっていた。
お囃子の音も聞こえなくなっている。

(えっ、嘘…)

状況の異常さに青ざめた時、前方の曲がり角から何かが突き出しているのが見えた。

それは白い腕だった。

手首から先がゆらゆらと揺れて手招きしている。

「ひっ!」

慌てて戻ろうとして後ろを向くと、黒衣の胸にぶつかってよろけてしまった。

「赤屍さん?」

それは運び屋の赤屍蔵人だった。
つい疑うような口調になってしまったのは、本物かどうか自信がなかったからだ。

「遅いので探しに来たのですが…またおかしなものに気に入られたようですねぇ」

おかしなものの代表のような人に言われたくはないと思ったものの、いま頼りになるのは彼だけなので口には出さなかった。

「ど、どうするんですか?」

「簡単なことですよ。こうすれば良い」

赤屍の手からズブズブと赤い剣が現れる。
彼は白い腕がある方向に向かってその剣を一閃した。

その途端、耳を覆いたくなるような凄まじい怨念に満ちた悲鳴が響き渡った。

やがて辺りに再び静寂が戻ると、赤屍はこちらに向き直ってなまえの手を取った。

「では、帰りましょうか」

「ふ、ふえぇ…!」

なまえは赤屍の手に縋りつくようにして、彼とともに歩き出した。

今夜は一人でトイレに行けないかもしれないと怯えながら。


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