その日、S級任務から帰還したスクアーロが室内に入るや否や、挨拶代わりに飛んできたグラスが吸い込まれるように彼の額に命中した。

「うお"ぉ"い!任務から帰ってきた途端これかぁ!!」

額からドクドクと流血しながら抗議するが、グラスを投げた犯人であるザンザスはパソコン画面から目を離しもしない。

悲しいことにスクアーロにとってこのような扱いは日常茶飯事だったので、「クソボスがぁ」などとブツブツ文句を言いながらも、彼はボスの傍らへと歩いていった。

スクアーロがちょうど画面が見える位置まで来たとき、パソコンにメールを受信したという情報が表示された。
差出人は──リボーンだ。

「リボーンだとぉ?何を送ってきやがったんだ?」

不審がるスクアーロをよそにザンザスはマウスを操作してメールを開く。

真っ先に目に入ったのはメールに添付されていた動画だった。
《サンプル動画》と銘打たれている。
すかさず再生ボタンをクリックすると、ステージの上で踊る幼女の姿が映った。
言うまでもなく、その幼女は、ザンザスが愛するただ一人の女──沢田なまえの幼い頃の姿である。
どうやら幼稚園時代の御遊戯会か何かのビデオらしい。
可愛らしい衣装を着た幼女は、手で猫耳を再現する時のように頭に両手をあててにゃんにゃん踊っている。

サンプルと題されているだけあって、その映像はあっという間に終わった。

メールの本文には、このサンプル動画の本編を観たい場合は下記の口座に購入代金を振り込むようにとの指示が書かれていた。
アダルト業者の詐偽請求なみの手口だ。

「だとぉ!?こんなもんに振り込む馬鹿が、」

「おい、カス鮫。今すぐこの口座に入金してこい」

「買うのかぁ!!!!!!」





「まあ! なまえちゃんのあの御遊戯会のビデオ、ザンザスさんに売ることになったの?」

洗い終えた皿を布巾で拭きながら奈々が首を傾げる。

「言ってくれればいつでも送ったのに」

「タダで送ってやることなんてねーぞママン」

テーブルの上に座ってエスプレッソを飲んでいるリボーンは容赦なく言った。

「あいつは腐るほど金持ってんだ、搾り取れるだけ搾り取ってやれ。これで高級ステーキ肉が買えるぞ」

「あ…あら…そう?」

(この人鬼畜だーー!!)

綱吉は改めてこの家庭教師の恐ろしさを思い知った気がした。



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