見てしまった。 シロウがアサシンに膝枕をされているところを。 正確には、長椅子に横になっていたシロウの元に現れたアサシンが、勝手にその頭を持ち上げて膝枕をしてしまっただけなのだが。 それでもその光景は充分ショックを受けるに値するものだった。 逃げるように部屋に戻って来たなまえを見て、カルナが微かに眉をひそめる。 「どうした、マスター」 「ううん、何でもない」 「何でもないという風には見えないが」 「うっ……」 真っ直ぐに見つめてくる瞳からは逃れられない。 結局、洗いざらい吐かされてしまった。 「マスターは、シロウ・コトミネがアサシンに膝枕されていたことが嫌だったのか」 「嫌というか…うーん、複雑な気持ち」 自分とシロウとは、ただの監督者とマスターという関係でしかない。 それは、確かに、出会った時から非常に好意的に接してくれてはいるが、それはなまえがカルナのマスターだからだ。 そこに特別な感情があると勘違いしてはいけない。 勘違いしてはいけないのだ。 「マスター」 「はい」 「マスターは、シロウ・コトミネに膝枕をしたいのか?」 「なっ…!そ、そんなことっ」 「違うのか」 「…違わ、ない…」 正直なところ、アサシンを羨ましいと思ってしまった。 そんなスキンシップが許される特別な間柄。 例えそれが、マスターとサーヴァントというある種の協力関係だとしても。 「俺で良ければ協力しよう」 「えっ」 「シロウ・コトミネに話してくる」 「わっ、ダメダメ!それはだめぇぇ!」 慌てて止める。 カルナなら本当に言いに行ってしまいそうだったので。 カルナは納得がいかないのか、不思議そうな顔をしている。 「えっと、カルナが代わりに膝枕させてくれないかなって」 「俺でいいのか?」 「うん、カルナがいい」 「そうか」 (あっ、笑った?) 珍しいこともあるものだ。 柔らかい表情になったカルナをしげしげと見つめてしまう。 「マスター?」 「あ、ごめん。じゃあ、ベッドに座るね」 「ああ」 ベッドに腰を降ろして、膝を軽く叩く。 「はい、どうぞ。あ、その首の輪は外してね。刺さると痛そうだから」 「了解した」 カルナの首もとにあった金属製の首輪が消える。 すると、彼はギシと軋ませてベッドに座ると、なまえの膝に頭を乗せて横たわった。 カルナの、男のひとの頭の重みを膝に直接感じるのは不思議な気分だった。 ドキドキと胸が高鳴るような、それでいて何故か優しい気持ちになれるような。 トントンとノックの音。 見れば、部屋の入り口に立っているシロウが、開け放たれたままだったドアを軽くノックしていた。 「し、シロウさん…!」 「すみません、開けっ放しでしたので。仲がよろしいのですね」 「あの、これは」 「大丈夫です。他言は致しません」 違う、そうじゃないんです、と言いたいが言葉にならない。 シロウは何故か寂しげな微笑みを浮かべていて、 「正直、羨ましいと思ってしまいました。私も……いえ、何でもありません」 と言うと、なまえに資料らしき紙を渡して部屋から出て行ってしまった。 「マスター、顔色が悪いが大丈夫か」 カルナの温かい手が頬を包み込む。 「だめ…かも…」 がくりと項垂れたなまえを、カルナは相変わらず変わらぬ表情のまま、しかし微かに満足そうに見つめていた。 |