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人理継続保障機関フィニス・カルデアは、標高6000メートルの雪山の地下に存在する。

もちろん空調で室内の気温は快適なものに保たれているが、それは人が働いている場所だけだ。
使われていない部屋や各通路などはその限りではない。
施設を維持するエネルギーを最小限に抑えるためである。

だから廊下から部屋に戻って来ると寒い。
温度設定を上げて、ようやく人心地つく次第だ。

炬燵があって良かったと、炬燵布団の中に潜り込みながらしみじみ思う。
これで蜜柑もあれば申し分ないのだが、残念ながらそこまでは用意出来なかった。

「なまえさん」

ドアが開いて、シロウさんが入って来る。

「ただいま戻りました」

「お帰りなさい。どうしたんですか、それ」

シロウさんが抱えている籠の中には、山盛りの蜜柑。

「貯蔵庫で見つけました。以前、言っていたでしょう。炬燵で蜜柑が食べたいと」

「覚えていてくれたんですか」

「もちろんです。あなたの願いですからね」

私が言った何気ない言葉を覚えていてくれたことに感動していると、シロウさんは蜜柑の籠を炬燵の上に置いた。

「シロウさんも早く入って下さい。寒かったでしょう」

「私はサーヴァントですから。受肉していた時とは違って、気温にはそれほど左右されないのですよ」

そう言いながらも、シロウさんは私を後ろから抱きしめるようにして炬燵に入って来た。

「あったかい…」

「かわいそうに。随分冷えてしまっていますね」

「あ、イタズラしちゃダメです」

「おや、残念」

シロウさんは小さく笑うと、身体のラインをなぞり上げた手を私のお腹の辺りで組み合わせて耳を食んだ。

「蜜柑を持って来たご褒美は頂けませんか」

「それは…あとで、後でにしましょう!せっかく蜜柑があるんですから、食べないと!」

「ふふ、そうですね」

シロウさんがお腹に回していた手を解く。
そして、炬燵の上に置いた籠から蜜柑をひとつ取り上げた。
優しい手付きでやわやわと揉んだ蜜柑の皮を剥き、丁寧に白いスジを取って私の口元へと運んだ。

「さあ、どうぞ」

「ありがとうございます」

シロウさんが食べさせてくれた蜜柑は、とっても甘くて美味しかった。

「美味しい」

「愛情が籠っていますから」

「じゃあ、私も」

私も蜜柑を手に取り、同じように軽く揉んで皮を剥いてから、後ろのシロウさんを振り返って蜜柑の実を食べさせてあげた。

「ありがとうございます。美味しいですね」

「良かった」

「でも、もっと美味しいものが食べたいです」

耳元で甘い声が囁き、シロウさんの手が明確な意図を持って、私の身体に触れる。
それだけで、まるで強いお酒でも飲んだようにカッと身体が熱くなった。

「シ…シロウさん…」

「もう蜜柑、食べましたよね?」

「まだ残って……あ、んっ!」

服の中に入り込んだシロウさんの手が直に胸の膨らみを包み込む。
そのまま、さっき蜜柑にそうしたように、優しい手付きで揉みしだかれて、私は咄嗟に両手で口を押さえて声が出てしまうのを防いだ。

「ダメですよ。声を抑えないで下さい。あなたの可愛い声が聞きたい」

その時、何の前触れもなくドアが開いた。

「なまえさん!ここに炬燵と蜜柑があるって聞い……」

目が合った状態で固まる私と藤丸くん。
シロウさんの笑い声が耳をくすぐる。

「失礼しましたぁっ!」

「ま、待って!藤丸くん!」

慌てて出て行ってしまった藤丸くんを引き止めようにも、シロウさんに捕まっていて動けない。

「もう!シロウさん!」

「すみません。でも、これで邪魔者は来ないでしょう」

「やっぱり、わざと…んんッ」

シロウさんに口づけられて、抗議も抵抗も容易く封じられてしまう。

その後、炬燵に入るたびに、そのあとの出来事を思い出して恥ずかしくなってしまうのだが、それでも炬燵の誘惑には抗えないのだった。


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