この空中庭園にどうやって攻めてくるのかと思っていたら、黒の陣営は何機もの飛行機で隊列を作ってやって来た。 恐らくあれらはダミーだ。 黒のマスター達はそのあとから別の機体でついてきているのだろう。 遠いので見えないが、黒のアーチャーがいるのは確かだ。 彼からの攻撃でそれがわかった。 迎え撃つのは、赤のライダーのアキレウス。 黒のアーチャーの攻撃はまるで機銃掃射のようだ。 それを紙一重でかわしていくアキレウスも凄い。 凄まじい空中戦に目を奪われていたなまえだったが、こうしてはいられないと、目的地に向かって走った。 カルナと約束したのだ。 もし黒の陣営が攻め込んで来たら、他のマスターがいる部屋の前で待機しているようにと。 シロウにも事前に説明されていた。 彼は、天草四郎は、これから大聖杯にアクセスを試みる。 その間のことはアサシン達に任せてあるから、決して表に出てきてはいけない、と言われていた。 「直接守ってあげられなくてすみません」 「いいんです。私がシロウさんを守ります」 申し訳なさそうになまえを抱き締めたシロウに、なまえはそう告げた。 「カルナのマスターとして、頑張ってシロウさんの力になります」 それを聞いたシロウは困ったような微笑みを浮かべていたが、なまえは本気で死力を尽くすつもりでいた。 「どうか無理はしないで下さい。貴女が死んでしまっては意味がない」 「でも」 「約束です。必ずまた会いましょう」 「シロウさん…はい!」 確かに約束したのだ。 それなのに。 「いや!行かない!」 「マスター」 「私はここに残らなきゃいけないの!」 カルナによって抱えられ、半ば無理矢理転送装置のある部屋に入れられる。 意識のない他のマスター達も一緒だ。 カルナと何か取引したらしく、黒のマスターであるカウレスが転送装置に手をかける。 「さらばだ、マスター」 「カルナ!」 そして今、カルナと黒のマスターによって“外”へと逃がされたなまえは、遠くの空に浮かぶ、崩れ落ちていく空中庭園を呆然と見守っていた。 既に右手に令呪はない。 カルナはホムンクルスに負け、消えてしまった。 そして、シロウも。 「──なまえさん?」 ぼんやりしていたなまえは、ハッとして顔を上げた。 なまえと同じくカルデアのマスターである藤丸立香が心配そうにこちらを見ている。 「気分が悪いんですか?それなら召喚は延期したほうが…」 「ううん、大丈夫。ごめんね、ぼんやりしちゃって」 サーヴァントの召喚。 そうだ。 それが出来なければ、このカルデアに来た意味がない。 コールドスリープで時間を越えてまで生き長らえた意味がない。 「では、始めよう」 ロマニとダ・ヴィンチ、藤丸が見守る中、呪文の詠唱を始める。 それに応えるように、サークルの中が光り出した。 瞬間、まばゆい光が辺りを満たす。 なまえは咄嗟に閉じた目をゆっくりと開いた。 その目が驚きに見開かれる。 見慣れたはずの姿が、涙でぼやけてしまってよく見えない。 「サーヴァント、ルーラー。天草四郎時貞」 召喚に応じて現れたサーヴァントは、そう名乗ると、慈しむように微笑んでなまえに手を差し伸べた。 「約束通り、また会いに来ましたよ、なまえさん」 |