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「すみません。あまりに嬉しかったので、ついがっついてしまいました」

困ったように微笑むシロウ・コトミネの前で、なまえは一糸まとわぬあられもない姿をさらしている。

あちこちに情痕を刻みつけられた身体は気怠く、力が入らない。
先ほどまで彼が挿入っていた場所はぽかりと口を開けたまま、注がれた残滓をとろとろと溢れさせていた。

対するシロウはカソックをきっちりと着込んでいて、まるで何事もなかったかのように澄ました顔をしている。

「シロウさん…」

「そのままじっとしていて下さい。今綺麗にしてあげます」

そのままでも充分綺麗ですけどね。
そう言って、シロウは湯で絞ったタオルでなまえの顔を拭いてくれた。
その心地よさに小さく息をつく。
幼い頃に母に拭いて貰った記憶が蘇り、切ないような気持ちになった。

あの頃はこんなことになるなんて思いもしなかった。

シロウは再度湯で絞り直したタオルでなまえの身体を拭き清めていく。
隅々まで丁寧に、優しく。

その手が下肢まで来た時、それまでなすがままだったなまえもさすがに恥じらいを覚えて訴えた。

「じ、自分でやります」

「私に触れられるのは嫌ですか?」

「そんなことは…」

「では任せて下さい」

ダメだ。この男には勝てない。

なまえがぐったりと力を抜いたのを良いことに、シロウは己が放ったものを指で中から掻き出し、タオルで丁寧にそこを拭った。

今なら羞恥で死ねそうだ。
あまりの恥ずかしさになまえは両手で顔を覆った。

クス、と笑う声が聞こえて、毛布で身体をくるまれ抱き上げられる。

「少し待っていて下さいね」

そのままそっとソファになまえを降ろすと、シロウは手早くシーツを取り替えた。

本当に軽々と抱き上げられたことにショックと戸惑いを隠せない。
細身に見えても彼はやはり武人なのだ。
それはもちろん行為の最中に彼の身体を目にしていたわけだが、その逞しさよりも、無数の痛ましい刀傷や火傷の痕に目がいってしまい、そのせいで胸が締め付けられそうな思いをしていたのである。

だから、求められるまま全てを受け入れた。
この哀しいまでに重い運命を背負った男に愛されるというなら、ほんのひとときだけでもいい、甘い夢のような時間を共に過ごしたいと願ったのだった。

「今日はこのまま休んで下さい。後のことは私が」

再びなまえを抱き上げてベッドに降ろそうとしたシロウの首に腕を回して抱きつく。

「なまえ?」

「すき…好きです、シロウさん」

「私もです。あなたを愛しています…心から」

きゅっと抱きしめ返されて耳元で甘く囁かれる。

「私の目的を知っても変わらぬ態度を示してくれたあなたに、誠意を持って応えたい」

「シロウさん…」

「見ていて下さい、なまえ。私は…俺は必ず聖杯の力を手に入れる。必ず、全人類を救済するというこの望みを叶えてみせる」

そのためにはどんな犠牲もいとわない。
利用出来るものは全て利用する。自分自身さえも。

そんな痛いくらいの決意が伝わってきて、なまえはそれ以上何も言えなかった。

シロウの肩口に顔を埋め、静かに涙を零す。
その雫はカソックの黒い布地に吸い込まれて消えていった。


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