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エレン・イェーガーがウォール・ローゼの穴を塞いだ事により、一先ずの安全は守られた。
彼の身柄は調査兵団が預かる事になり、それから1ヶ月。

カラネス区の門の前に調査兵団が列をなして開門の時を待っていた。
彼らはこれから壁の外へと赴く。
エレン・イェーガーを守りながら、彼の生家があるシガンシナ地区へ“行って戻って来る”。
それが今回の目的だった。

「絶対、絶対、生きて帰って来て下さいね!」

兵服ではなく私服を着たナナミは、目の前の男に向かって必死に訴えた。
エレンが気まずそうにこちらを見ている。
エレンも彼の周りにいるリヴァイ班の者達も既に馬上にいた。
リヴァイだけが馬から降りてナナミと向き合っている。

本来ならナナミもリヴァイ班の一員として任務に向かうはずだったのだが、そうもいかなくなってしまった。

孕まされたからだ。

孕まされたからだ。

大事な事なので二度言った。

そもそも、ナナミにそんなつもりは全くなかった。
それは確かに、そういう行為はしていたけれども、何もかもが突然だった。
ある日リヴァイに連れてこられた医師に診察されたかと思うと、

「喜べ。お前は人類最強の子を孕んだ」

と、物凄く悪い顔をしたリヴァイに告げられた瞬間にはもう、ナナミは内地送りが決まってしまっていたのだ。
裏ではエルヴィン団長も一枚噛んでいたというから、その時点でナナミに選択肢はなかった事になる。

「絶対、絶対、生きて帰って来て下さいね!私が一発ぶん殴るまでは巨人なんかには絶対やられないで下さい!」

「おい、あまり興奮するな。腹の子に障るだろうが」

「ご心配なく!きっと兵長そっくりな丈夫でふてぶてしい子のはずですから!」

「お前に似た可愛い娘の可能性もある」

「兵長の遺伝子のほうが圧倒的に強いに決まってるじゃないですか!」

「それもそうだな」

リヴァイはナナミを引き寄せて緩く抱きしめた。

「食事はちゃんと取れよ。激しい運動は禁物だが、適度に身体を動かすのはいいそうだ」

「兵長……」

「あとはソレだ。これからはベッドの中以外でもちゃんと名前で呼べるようにしておけ」

「もおぉぉ!兵長のばかぁぁぁあ!!」

ナナミの背中を優しくぽんぽんと叩いてからリヴァイは身を離した。
さっと馬に跨がる。

「必ず戻る」

ナナミはぐっと涙を堪えた。
無意識の内に両手で腹を守るようにしながら、馬上の男を見上げる。

全くいつもと変わりない表情でナナミを見下ろしてくる彼が、この世で誰よりも大切な存在になってしまった。
今まで何度も恐怖を感じてきたが、今が一番怖い。
彼を失うのではないかと思うと、怖くて堪らない。

「約束ですよ」

「ああ」

ナナミは行軍の邪魔にならないように建物の側に下がった。

開門30秒前の声が辺りに鋭く響いた。


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