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5年前、ウォールマリアが破壊されてから風向きが変わったとナナミは感じていた。

それまでは、調査兵団と言えば、税金の無駄遣いだの、平和な世にわざわざ壁外に出て戦争ごっこをする変わり者の集団だのと酷い言われようで、民からの評判はいまいちだったし、外に目を向けさせたくない王政にとってもどちらかと言えば鼻つまみ者扱いだったのだ。

それが、ウォールマリアが破壊された事で王政は180度態度を変え、調査兵団の有用性を認めて人材と資金を投入するようになった。

前団長であるキースに替わり、エルヴィンが団長に就任した事も大きい。
彼はナナミから見てもかなりの切れ者だ。

そのエルヴィンの部下で兵士長であるリヴァイも更に忙しくなった。

考えるのは俺の仕事じゃねぇと彼は言うものの、普段から部下の動向に目を光らせていて、誰が今どんな状態で、いざ実戦となったらどう動けるのかという事まで彼はよく把握している。
一人でも多くの部下を失わないために、彼は常に最善を尽くしているのだ。
ただ命令されるままに動くだけの兵士ではない。
命の重さと儚さを知っている彼は良い上官だとナナミは思う。
彼の元で働ける自分は幸せだ。

と、そこまで考えたところで、ナナミが座るソファの隣に誰かがドサッ!と勢いよく座った。

「なぁ、ナナミ」

「ななななんでしょうかっ!?」

それがリヴァイだと解るや否や、ナナミはバネで跳ねあがったようにソファから立ち上がり直立不動の態勢をとった。

「まーたやってる」

「任務中は全然平気なのになぁ」

「なんか本能が危険を感じとってビビッちまうんだそうだ」

「そりゃ、兵長はナナミを狙ってるからな」

「見ろよ、肉食獣に睨まれた小鹿みたいになってるじゃねぇか」

「蛇に睨まれた蛙じゃなくて?」

皆が話している声は聞こえているが、ナナミは動けなかった。
目の前にリヴァイがいるからだ。
目を逸らす事はしない。出来ない。
でも、身体はぶるぶる震えていた。

「俺が怖いか」

「い、いえ…」

「なら良かった」

座れ、と指でソファを示されて、ナナミはリヴァイの隣にそっと座った。

「少し髪が伸びたな」

「そ、そうでしょうか?」

「ああ」

言いながら後ろ髪を掬われる。
指の間からサラサラと髪を流されて、ナナミは首筋まで針金が通っているようにピンと張りつめていた。

「兵長もよくやるよなぁ…」

「少しずつ慣らすんだとよ」

「真綿でじわじわいくのか。キツイな」

リヴァイはナナミの肩に腕を回すようにソファの背もたれの部分に腕を乗せた。

「へ…兵長…」

「なんだ」

「ち、近くないでしょうか…?」

「俺が怖いか」

「い、いえ…」

「なら良かった」

お互いの体温が感じとれるほどの距離で、リヴァイがじっとナナミを見つめる。
ナナミは固まったまま動けずにいた。

「でもまあ、触っても逃げなくなったよな」

「兵長は頑張った」

「でもキスされたら死ぬんじゃないかあれ」

ベッドまでの道のりはまだ遠い。



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