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あっという間だった。
光陰矢の如しというけれど、私とリヴァイが知り合ってから結ばれて家族になるまで、本当に瞬く間に時間が過ぎていったように感じる。
密度の高い充実した時間だったからかもしれない。

出逢った時、私達は生徒と教師だった。
教え子に手を出すなんて、とんだ不良教師もいたものである。

と言っても、正式に付き合い始めたのは私が卒業してからだった。
初めてを奪われたのも。
色々な意味で子供時代を卒業したわけだ。

大学に進学せずに結婚したために、それをあまりよく思わない人もいた。

でも、私は幸せだ。

ぶっきらぼうだけど、情が深くて優しい愛する人と家族になり、そして今はお腹に新しい命が宿っている。
これ以上ないほど満ち足りていて幸せだった。

そうだ、今日はビーフシチューにしよう。
お肉はあったし、玉ねぎも人参もじゃがいももある。
マッシュルームは缶詰でいいか、と戸棚の中身を確認して私は材料を用意した。

いかにも新婚さんな雰囲気の肩と裾にひらひらしたレースが付いた白いエプロンを身につけ、じゃがいもの皮を剥いていく。

全ての準備が整い、コトコトと鍋で煮込んでいると、玄関の鍵を開ける音が聞こえてきた。
そしてドアが開く音。

帰って来た!

私はお腹を気にかけながらも精一杯急いで玄関に向かった。

「お帰りなさい!」

相変わらず目付きの悪い、でもスーツ姿がとてもよく似合っていて素敵なあの人が、出迎えた私の名を呼んだ。


「ナナミ!」


一瞬呼吸が出来なかった。
頭がくらくらして、目の中で星が散っている。
背中が痛い。でも、冷や汗が出るような危険な痛み方ではなかった。

「大丈夫!?」

ペトラが心配そうな顔で覗き込んでくる。
そうだ。
思い出した。
奇行種が突然振り回した手にぶつかって、建物の壁に叩きつけられたのだ。

「巨人は…」

「兵長が」

ペトラが顔を上げて右のほうを見たので私もそうした。
巨人は弱点であるうなじの肉を削ぎ取られ、既に地に伏していた。
高温の蒸気を発するそれを一瞥して、刃を収めた兵長がこちらにやって来る。
相手が訓練生ならビビって洩らしてしまいそうな凶悪な目付きで睨んでくる。

「ヘマしやがって…」

「申し訳ありませんでした」

「怪我は」

「ありません」

起き上がろうとしたら足元がちょっとふらついた。
叩きつけられたショックのせいだろう。

そういえば、一瞬意識が飛んだ時に、何か走馬灯のような幻を見ていたような気がする。
記憶は既に薄れていてよく思い出せないが、兵長が出てきたのは間違いない。
兵長が私を呼ぶ声で意識を引き戻されたのだ。

「夢でも見ていたような顔をしているな」

よほどぼんやりしているように見えたのだろう。兵長が言った。

「念のため医療班に診て貰え」

「はい」

少し離れた所に簡易テントが張られ、怪我人の手当てをしている。
テントに向かいながら振り返ると、兵長はペトラと何か話していた。

私はすぐに目を逸らした。

ただ一途に想うだけで相手が振り向いてくれるなら、きっと世界は幸せな恋人達で満ち溢れているだろう。
でも生憎世界はそんなに甘くも単純でもない。

いつ死ぬかもしれないこの絶望的な世界で、私は絶望的な恋をしている。


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