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「海?」

振り返ったリヴァイは呆れたような顔をしていた。
まあ、それはそうだろう。
突然そんな事を言われれば誰だって驚くに違いない。

「お前、そりゃ禁書の知識じゃねぇか。憲兵団にしょっぴかれても知らねぇぞ」

「祖父が持ってたんですけど、とっくに没収されて燃やされちゃいました」

「だろうな」

「でも、内容は全部覚えてます」

今でも目を閉じれば、色さえついていない挿し絵が瞼の裏に蘇る。

「青い海がどこまでもずーっと続いていて、そこには小さい魚から巨人みたいに大きな魚まで住んでるんです」

「巨人みたいな魚か……」

どうやって削ごうか考えているのか、彼の眼差しは鋭かった。
彼ならきっと巨人な魚だってかっ捌いてしまえるだろう。

「で、その海がどうした?」

「いつか見てみたくて調査兵団に入ったんです」

「そうか」

会話はそれで終わりだった。

あれから5年。
ウォール・マリアが破壊されて、情勢はすっかり変わってしまった。
もう外の世界の話をしても、危険思想の持ち主だとマークされることもない。
本当にあるかどうかもわからないものに憧れる変わり者として扱われるだけだ。

ただ、リヴァイの態度は一貫して変わらなかった。

「ナナミ。お前はまだ海が見てみたいと思っているのか」

「前とはちょっとだけ変わりました」

リヴァイの隣を歩きながら答える。
馬が繋いである場所まではもうすぐだ。

「知ってますか、海と陸の境目は砂浜になっていて、そこには海からの波が引いては返して、人間は恋人同士でそこを散歩したりしたんだそうですよ」

「散歩…か」

「だから、いつか、二人で砂浜を歩いてみたいなって……今は、それが私の夢です」

二人して馬に乗る。
利口な彼らは手綱を握った時から既に歩き出していた。

リヴァイは馬鹿みたいな話をするなとは言わなかった。
これからもしかしたら死ぬかもしれないのに、夢みたいな話をしてもただ聞いてくれた。

「その夢を叶えたいなら、俺が奴らを絶滅させるまで何がなんでも生き延びろ」

門が開き、壁の外へ行く直前、優しい彼は一言そう忠告してくれただけだ。

それから私達は、私達を食らおうと待ち構えている巨人達が徘徊する世界へと馬で飛び出した。

「総員、戦闘用意!」

団長の号令で一気に緊張が走る。
早くも巨人を発見したのだ。

「目標は1体、5m級だ!必ず仕留めるぞ!!」

訓練通りに陣形を作り、馬を駆る。

5m級の巨人がニヤニヤと口を開けて笑って私を見ているのが、まるでそんな儚い夢など叶うはずがないと馬鹿にしているかのようだった。



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