実戦を想定しての訓練でとんでもないミスをおかしてしまった。 教官にはこっぴどく叱られるし、同期の仲間からは冷ややかな目で見られ、泣きたくても泣けない状況だった。 当たり前だ。もし巨人がいたら仲間を失いかねないミスだったのだから。 泣き言は許されない。 その日は教官に許可を貰い、遅くまで残って自主トレに励んだ。 何周も走り込み、立体機動のイメージトレーニングもした。 それでも何か足りない気がしてあがいていると、不意に人の気配がしてハッと振り向いた。 「リヴァイ兵長…むぐっ!?」 後ろに立っていた人物の名を呼んだ瞬間、口に何かを突っ込まれる。 覚えのある棒状のもの。 非常用携帯食のクラッカーだ。 「見つからねぇ内に早く食え」 何度も頷き、急いで咀嚼する。 美味くもないが不味くもない。 味気ない携帯食だが、お腹はちゃんと膨れる。 「食事もとらずに訓練に励むのは見上げた根性だが、腹が減ってる時に本来の力が出せると思うか?」 食べ終えた私に水の入った革袋を渡しながら兵長は言った。 「…いいえ」 それを受け取って、がっくりと項垂れる。 私はまた失敗してしまったのだ。 「身体を痛めつけるようなやり方は効率的とは言えねぇ」 「…はい」 「まずは自分の限界を見極めろ。無理をすればいいってもんじゃねぇのはわかるな?」 「…はい」 兵長の声がいつもより優しく聞こえて、つい気がゆるんだのか、ぽたぽたと涙が零れ落ちる。 今までずっと我慢してきたのに、こんな風に優しくされてしまったら泣いてしまう。 「へ、へいちょ…」 「死ぬなよ」 「うう…!」 「お前みたいな奴は危なっかしくて仕方ねぇ」 頭をぽんぽんと優しく叩かれて、私は本格的に泣き出してしまった。 「おい、涙がつくじゃねぇか…」 「すみません…」 「もう泣くな」 「すみません…」 「飯はちゃんと食えよ」 「…はい」 ハンカチでやや乱暴に顔を拭かれて、私は大きく息をついた。 ようやく泣きやんだ私に満足したのか、兵長は現れた時と同様に、何も言わず立ち去った。 「ありがとうございました…!」 遠ざかっていく兵長の背中に向かって頭を下げる。 再び顔を上げた時には不思議とさっぱりした気分になっていた。 大丈夫、まだ頑張れる。 |