※内地妻の続き エルヴィンがナナミの家を訪れたのは昼過ぎの事だった。 丁度近くの地区で会議が行われたとかで、わざわざ家に寄ってくれたのだ。 「調子はどうだい?何か困ったことは?」 「いえ、大丈夫です」 リヴァイと結婚して以来、彼はこうして何かと気にかけてくれている。 今日は珍しい葡萄酒と果物を土産に持って来てくれた。 こうしたさりげない気遣いに、彼の紳士な優しさを感じる。 「この間のスコーンは絶品だった。また何か作って貰えると嬉しいのだが」 「喜んで」と答えれば、エルヴィンは目尻に皺を寄せて微笑んだ。 そんな彼を見て、ナナミは、今度はお酒に合うブランデーを効かせたフルーツケーキでも差し入れようと考えた。 いつも主人がお世話になっているのだから、これくらい御安いご用だ。 「ところで、」 エルヴィンが言いかけた時、やや慌ただしくドアが開かれ、この家の主人が足早に入って来た。 「エルヴィン…てめぇ」 「やあ、お邪魔しているよ」 にこやかに迎えたエルヴィンを睨んで舌打ちしたリヴァイに、ナナミが駆け寄っていく。 「お帰りなさい。今日は早かったのね」 「ああ。会議だったからな」 エルヴィンとリヴァイは同じ会議に出ていたのである。 雑用を押し付けられた部下を後目に、団長は悠々と先にこの家を訪れたというわけだ。 「なんだ、リヴァイ。私に待っていて欲しかったのか」 「そういう問題か」 妻を引き寄せてあからさまに自分の後ろに庇う素振りをするリヴァイに、エルヴィンは朗らかな笑い声を響かせた。 これだからこの悪戯をやめられないのだ。 「君はリヴァイに本当に大切にされているね、ナナミ」 優しく告げられ、ナナミは頬を染めた。 「羨ましいなら、さっさと身を固めろ」 「それもいいかもしれない。そうしたら、今度は家族ぐるみの付き合いという事になるな」 「誰が付き合ってやると言った」 「まあ、そう邪険にしなくてもいいじゃないか」 守るべき家族が出来たこと。 誰よりも大切に想う相手と結ばれたこと。 過去のリヴァイを知るエルヴィンは、今の彼の状況を非常に喜ばしく思っているのだ。 だから、ついちょっかいを出してからかってしまう。 お互いに、いつ消えるか分からない命だからこそ、今の幸せを大切に味わって欲しいと思うのだ。 願わくば、このまま幸せでいて欲しい、と。 「それでは私は失礼するよ」 「ああ」 「是非またいらして下さいね」 「ありがとう」 エルヴィンが柔らかな気持ちで彼らの家から退出した後。 夫婦の間では、 「だから誰でも彼でも無防備に入れるなと言ってるだろうが」 「だって団長さんだったから」 「ほう…どうやら躾のし直しが必要なようだな」 「え、え…!?」 「丁度良い物があることだしな。これを使うか」 と、葡萄酒の瓶を持った夫が妻に迫っていったのであるが、既に馬上の人となっていたエルヴィンはそんな事とは露とも知らなかった。 |