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リヴァイ先生の部屋に来ている。
虎穴に入らずんば虎子を得ずと言うが、私は別に虎の子なんか欲しくない。
出来れば来たくなかった。
でも、先生が風邪をひいたと聞いてはそうも言っていられない。
先生は私の恩人だ。
せめて看病ぐらいはしないと。

というわけで、先生の部屋を訪ねたのだが。

「もう治った」

「嘘ですよ!まだ熱があるじゃないですか」

「これが俺の平熱だ」

そんなわけあるか!と叫びたいのを我慢して、先生の身体をベッドに押し戻す。

「なんだ、積極的だな」

「もう…馬鹿なこと言ってないで寝て下さい」

「馬鹿なこと?」

聞き捨てならないとばかりにリヴァイ先生が眉を吊り上げる。

「せっかくお前がヤる気になってるんだ、据え膳食わぬは男の恥だろうが」

「寝 て 下 さ い」

「チッ…」

何とかベッドの中に引きずりこむ事に成功した。
先生の身体が熱いのがよくわかる。
それに、本気で抵抗する気だったら私ではどうにも出来なかっただろう。
この人は身長はアレだけど、驚くほど力が強い。
何か格闘技をやっていたんですか、と聞いたことがあるが、「昔な」とだけしか教えて貰えなかった。
絶対若い頃ヤンチャしていたんだ。

「お粥作って来ますから寝てて下さいね」

そう言い置いてキッチンに向かう。

「……ナナミ」

先生の声が追ってきた。

「この平和な世の中で、今幸せか?」

「はい?」

奇妙な質問だった。
何か物騒なことでも始めるつもりなんだろうか。

「幸せですよ」

「そうか」

それっきり声は聞こえなくなった。

「先生…?」

不安になって覗きに行くと、先生は眠っていた。
穏やかな寝顔に安心する。

きっと風邪で気持ちが弱っているからあんな質問をしたんだろう、と結論づけてお粥作りに取りかかる。

先生が起きたのは、ちょうどお粥が出来上がった時だった。
たぶん匂いで起きたんだろう。

「お粥出来てますよ」

「…ああ」

トレイに乗せてお粥を運んで行く。
ベッドの側に椅子を寄せてそこに座り、トレイごとお粥を差し出した。

「食べられるだけ食べて下さいね。お薬飲まないと」

「お前は母親か」

「私も今ちょっと思いました」

良かった。軽口が叩けるくらい快復してきたようだ。

お粥をふうふう吹き冷まして食べる先生はちょっとだけ可愛かった。
母性本能をくすぐられるってこういうことかもしれない。

「早くよくなるといいですね」

「もう治った」

「またそんなこと言って…!」

今日は先生とちょっとだけ仲良くなれた気がする。
そう思っていたのだ。

「試してみるか?」

先生がそう言って私の腕を掴み、ベッドの中に引きずりこまれるまでは。


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