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その日、アッシュフォード学園の生徒会室には、ミレイとルルーシュの姿しかなかった。

スザクは軍の仕事。
シャーリーは水泳部の練習試合。
リヴァルは本国から訪れた親戚を家族総出で出迎える為に一時帰宅中。
ニーナは実験が佳境に入っているとかで、手が離せないらしい。
カレンは病気欠席だというが、疑わしいものだとルルーシュは思った。
何しろ昨夜も元気にナイトメアを乗り回していた姿を目撃しているのだ。
作戦後も特に具合が悪い様子もなかったから、ずる休みに違いない。

「あ、ルルーシュ、これもお願い」

ただでさえ山積みになった書類の上に、ミレイがまたも分厚いファイルを数冊乗せる。
ルルーシュは僅かに眉根を寄せたものの、小さく溜め息をついただけで文句は言わなかった。
何処にいても書類の山に悩まされるのか、と些か苦い思いを感じずにはいられないものの、これは彼自身が選択した行動の結果なのだ。
二重生活の皺寄せがどのような形で我が身にふりかかるか覚悟していなかったわけではない。

学生としての生活。
ゼロとしての活動。
両立させるには相当の労力が必要であることは、初めから解りきっていた。
しかし、それでも不満に思う点は存在するもので。

「会長、確かに俺は最近はなかなか生徒会に顔を出せていませんでしたが、こんなに仕事が溜まっているのは流石におかしくありませんか」

「だってぇ、ルルーシュじゃないとわからない書類が多かったんだもん」

「俺の気のせいでなければ、こっちの予算案はリヴァルの仕事のはずですが」

「そうよ。でも、リヴァルは見落としが多いから、しっかり者の副会長にチェックしてもらわないとね」

もはや文句も出てこない。
ルルーシュは諦めて、少しでも書類を減らす為にペースを上げた。
書類のチェックは会長の仕事ではないのか、とミレイを追求する時間も惜しいくらいだ。

黒の騎士団の方も単なる烏合の衆では無くなった分、組織としての基盤固めが急務となっており忙しいのだが仕方がない。
書類の量を目で計り、かかる時間を弾き出す。
夕食に間に合うかどうか微妙なところだ。
ナナリーを任せてきたなまえに連絡しておくべきかもしれない。

「ねぇ、ルルーシュ」

「何ですか?」

「なまえちゃんって、まだ記憶が戻ってないのよね?」

「ええ、まだ何も思い出せないようですね」

着々と書類の山を減らしながら、ルルーシュの顔が曇る。
失われたなまえの記憶──これもまた重要な懸念事項の一つだった。
テーブルに頬杖をついたミレイも「そう…」と心配そうな声で答える。

「あのね……ちょっと思ったんだけど、なまえちゃん、記憶を無くす前の生活の中で、大切な人っていなかったのかしら」

「それは……家族とか友人という事ですか?」

「それもあるけど、恋人…とか」

ルルーシュが思わず書類から顔を上げると、ミレイと目が合った。

「ごめんね、変な事言って。でも、なまえちゃんすごくいい子だから、いてもおかしくないかなって少し思ったの。もしそうならきっと今頃心配してるんじゃないかな。だから───て、ルルーシュ!?」



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