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戦艦の艦内であるとはとても思えぬほど、きらびやかな装飾の施された室内。

そこでは、神聖ブリタニア帝国宰相シュナイゼル・エル・ブリタニアをはじめとする三人の男女が、やはり戦艦という空間に似つかわしくない優雅さでティーカップを手にしていた。

「到着までは後どれくらいだったかな?」

「この調子で行けば二時間弱といったところでしょうか。一時間前になればブリッジから連絡が来る事になっております」

「そうか。それを聞いて安心したよ。少なくとも、飲みかけの紅茶を置いて慌ただしく指揮に戻る必要はないということだからね」

「ええ、そんな醜態は晒さずに済むはずですからご安心下さい」

大袈裟とも言える主の喩えに控え目に笑みをこぼして、カノンはジャムの瓶に手を伸ばした。
その女人の如く白い繊手が、ガラスの瓶から優美な手つきでジャムを取り出し、皿に取り分けたスコーンの傍らに添える様を、なまえはぼんやりと見つめる。
帝国宰相の副官らしい鋭さで視線に気付いたカノンは、柔らかく微笑みかけながら、ジャムを使うかどうか尋ねてきた。

「お使いになりますか?」

「あ、いえ、大丈夫です」

そうですか、と、これもまた柔らかな声音で答えたカノンも。
そして、この空間も。
何もかもがあまりに美しく整い過ぎていて現実味がない。
まるで舞台の上にいるようだ。
シュナイゼルやカノンは、堂々たる態度の見目麗しい容姿の持ち主だからそれでもいい。
でも、なまえ自身は、台本すら渡されずに急遽代役として無理矢理ステージに突き出された惨めな素人役者のような、そんな居心地の悪さを感じていた。

生まれの違い。

育ちの違い。

否応なく叩きつけられる現実に押し潰されそうになる。
場違いな人間ではないかという不安と息苦しさで窒息しそうだった。

「このまま何事もなく順調に進めば良いのですが…」

「何も起こらなければそれが一番だけどね。しかし、問題というものは、こちらが望まぬタイミングで起こるからこそ問題なのだよ。今から心配していても仕方がない」

二人の会話を半ば上の空で聞きながら、なまえはのろのろとカップを傾ける。
いま話しているのは中華連邦についてから行われる婚儀についての話のようだ。



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