特派に身を寄せるようになってニ週間。 なまえは与えられた自室のテーブルに向かい、ここ暫くの間にすっかり習慣となった『勉強会』に励んでいた。 大型のディスプレイに映る画像を眺めながらロイドの説明に耳を傾け、重要だと思った部分は手元のノートにメモを取る。 こうして様々な事を書きとめたノートは、早くも二冊目に入っていた。 何処へ行っても必要になるのは知識だ。 元いた世界ではそれなりに勉強し、普通の生活を送っていたなまえも、この世界では何も知らない子供と同じくらいの知識しかない。 便利・不便の問題を別にしても、こちらの世界で暮らしていく以上、せめて一般常識レベルの情報は身につけておくべきだろう。 初めにそう提案したのはロイドだった。 「まあ、無理してあれこれ覚えようとする必要はないと思うけどさ、一応、知ってて当たり前の知識くらいは勉強しておいて損はないと思うよ〜」 言い出しっぺの法則で、それから彼は時間を作ってはなまえに色々な事を教えてくれるようになったのである。 そうした彼との『お勉強会』のお陰で、少しずつこの世界に関する事がわかってきた。 一度学び始めると、興味を感じる事柄も増えてきて、今は普段の勉強とは別に、自主的にナイトメア・フレームについて調べていたりする。 ナイトメア・フレーム、略称KMF。 この国の軍事力の中枢を担う戦力である、人型の戦闘用装甲騎。 ロボットアニメに出てきそうなソレは、どうやら型によって機動性が随分違うらしい。 ロイドが開発に携わっている分野ということもあり、実に勉強のしがいがあった。 「どうかな、大体頭に入ったかい?」 「なんとか……」 突然大量の知識を詰め込み過ぎたせいで、ズキズキと痛む頭を押さえて頷くと、教師役を務めていたロイドはアハハと笑った。 「まあ、急には無理だよねぇ〜。そんな簡単に身につけられるなら学校なんて必要ないわけだし。とりあえず当面の生活に必要な基礎知識だけでも、ってことだから、他は少しずつ覚えていけばいいと思うよ」 「はい、有難うございます、ロイドさん」 「うん。じゃあ、次はなまえちゃんの番。君の世界はサクラダイトに頼ってないんだってね?」 テーブルに頬杖をつき、にこにこと笑いかけるロイドの目は、珍しい玩具を前にした子供のように輝いている。 やはり科学者というだけあって、彼は異なる文化を持つ世界のテクノロジーに興味を持っているようだった。 サクラダイトとは、この世界における富士近隣で採掘されるレアメタルのことだ。 高温超電導と呼ばれる技術に用いられている。 ロイドの話によると、このエリア11はサクラダイトの世界最大の産出国だった為、それを侵略の名目にされたのだろうとの事だった。 皇帝の真の目的がどこにあるにしても、だ。 そう詳しくはない自分の世界のエネルギー技術に関する知識を振り返りつつ、なまえは精一杯それをロイドに伝える。 |