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困った事になった。
身を寄せている軍の施設内にある厨房で、なまえはすっかり弱りきっていた。

目の前には、帝国宰相である第二皇子シュナイゼルが、非の打ち所のない優美な微笑を浮かべて佇んでいる。

「大丈夫、調理の邪魔はしないよ」

この場に似つかわしくない雅な男は、宥めるような口調でそう言ってなまえの頭を撫でた。
こうして撫でられるのは気持ちがいい。
気持ちがいいが、今はそれどころではないのだ。
なまえはロイドにプリンを作ってやっている真っ最中なのである。
そこへ突然やってきたシュナイゼルが、なまえがプリンを作る様子をここで見ていたいと言い出したのだった。
二メートルを越えるのではないかと思われる長身のシュナイゼルがいるだけで、ただでさえ狭い厨房がより一層狭く見える。
それでなくとも、小柄ななまえからするとかなりの威圧感を感じるのだ。
しかも、そのシュナイゼルにじっと見つめられながら調理するとなると、とてもじゃないが集中出来そうになかった。

「それとも、私がここにいては邪魔になってしまうかな?」

「まさか! 邪魔だなんて思ったりしません」

いくら客分扱いだからといって、帝国宰相その人を邪魔者扱い出来るほどなまえの神経は図太くない。
そこまで分かった上で言っているとしたら相当な曲者だ。
しかし、シュナイゼルの穏やかな笑顔からはそういった打算的なものは見受けられなかった。
勿論、ただ単になまえが気付けないくらい巧妙に隠している可能性もあるが。

「でも、お待たせするのも申し訳ないですし…」

「構わないよ。私が勝手にそうしているだけなのだからね」

困りきったなまえに典雅な微笑を返すと、シュナイゼルは近くにあった椅子を引き、そのまま腰を降ろしてしまった。
簡素な厨房のテーブルの上で長い指を優雅に組み合わせて、にこやかな笑顔でなまえを見遣る。
はっきり言って物凄くシュールな光景だ。
なまえは微妙に顔を強ばらせた。



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