「へえ…なるほどねぇ〜」 さすがというか何というか。 アドレス帳やメールの見方などのごく簡単な操作方法を教えただけで、ロイドは直ぐになまえの携帯の使い方を把握したようだった。 「確かに機能は僕達が使っているものと殆ど変わらないみたいだね。どちらかというとちょっとレトロな感じもするけど、ツールの数ではこの携帯に軍配が上がる。ニーズの違いかな」 なまえはただ黙って判断を待つしかない。 異世界から来ました、なんて、とてもじゃないがそう簡単に信じられる話ではないだろう。 まともに取り合って貰えなくても当然なのに、こうして話を聞いてくれるだけでも有り難いのかもしれない。 「殿下はどう思われますか?」 ふと携帯から目を上げて、ロイドが言う。 その目線の先にいるのは、金髪の青年。 ブリタニアの第ニ皇子にして、帝国宰相を務めているという、シュナイゼル・エル・ブリタニアだ。 彼は執務机の向こうに座り、組んだ手の上に顎を乗せてこちらを静かに見守っていた。 青に近い紫色の瞳は、ロイドではなくなまえに注がれている。 やましいことなんて一つもないけれど、それは何だか落ち着かなくなるような視線だった。 「私は長らくこの世界の秘密について調べてきた」 シュナイゼルが言った。 話しかけている相手はロイドなのだろうが、彫りの深い顔はなまえに向けられたままだ。 「そうする内に、我々が住むこの世界に似て異なるもう一つの世界があるらしいという話を耳にした事がある」 「皇室に伝わる『伝説』ですか。それなら僕も聞いた事がありますよ。異世界からやってきて皇子を助けるお姫様のお伽話」 「そう。しかし、時にはそんな話の中に真実が含まれている場合もあるのだよ」 シュナイゼルが立ち上がる。 彼は執務机を回り込んでなまえの側までくると、緊張で身体を硬くしているなまえの手を取った。 白皙の美貌と呼ぶに相応しい綺麗な顔に微笑を浮かべて。 「さっき彼女の話をどう思うかと聞いたね、ロイド。信じるとも、勿論。疑う必要などないだろう? 私はこの目で見たんだ。何もない空からなまえがこの腕の中に落ちてくるところを」 その言葉を聞いた瞬間、張りつめていた糸が切れた気がした。 なまえの瞳からぽろっと雫れ落ちた涙を、シュナイゼルが優しく指で拭ってくれる。 しかし、そうして拭われる端から次々と涙が溢れ出てきて止まらない。 「あ〜あ、殿下が泣かした〜」と笑うロイドの声が聞こえる。 「大丈夫、泣かなくて良いのだよ、なまえ。君の身は私が責任を持って預かろう。何も心配しなくていい」 頷くのが精一杯のなまえを胸へと抱き寄せて、シュナイゼルは何度も優しく背中を撫でた。 こうして、異世界でのなまえの新しい生活が始まったのだった。 |