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私立アッシュフォード学園。
政庁や商業ビルが立ち並ぶトウキョウ租界の中心部から少し距離をおいた場所に広がる高級住宅街に、その学園はあった。

全寮制の学園ということで、生徒達は学園の敷地内に建てられた寮で生活している。
しかし、同じ学園の敷地内ではあるものの、特殊な事情から、寮ではなくクラブハウスで暮らしている者もいた。



ルルーシュ・ランペルージは、クラブハウスにある自室でパソコンに向かっていた。
画面に表示されているのは医療関係のサイトの情報だ。

専門的な単語が踊る解説文の上を流れていた視線が、ある地点で止まる。
僅かに眉根を寄せたルルーシュの唇が小さく呟いた。

「全生活史健忘…」

説明によると、発症以前の出生以来のすべての自分に関する記憶が思い出せない状態を指すらしい。
いわゆる「ここはどこ?私は誰?」状態である。
ただし、思い出せなくなるのは主に自分自身に関する記憶であり、社会的な知識などは覚えていることが多いという。
まれに頭部外傷をきっかけとして発症することもあるが、多くは心因性。
なまえの状態にぴたりと当てはまる。

あの日──ルルーシュがギアスの力を得た日、シンジュクゲットーでなまえを保護した時、彼女は自分の名前以外の記憶を失っていた。
自分が誰で、どうしてここにいるのか、何も覚えていなかった。

このサイトの説明によれば、なまえは何らかのショックを受けたせいで記憶を失った可能性が高い。
しかし──ルルーシュは何故か奇妙な胸騒ぎを覚えた。

パソコンに険しい眼差しを注いだまま、こめかみに指をあて、ルルーシュは思考を巡らせる。

なまえは今ルルーシュの保護下にある。
記憶が戻っても戻らなくても、彼女を手放すつもりはない。
この先、エリア11がますます危険な状況に陥るだろうと分かりきっている以上、妹のナナリーと同じく、なまえの身の安全も考えなければならないからだ。
自分自身の手元に置いておくということ以外の選択肢は不確定な要素が多すぎる。

それに、誰かに意図的に記憶を操作された可能性も捨てきれない。
その場合、誰が何の為に記憶を奪う必要があったのかという疑問が出てくる。

となると、やはり、まずはなまえの記憶を取り戻す方法を探るべきなのか──。



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