最後のお別れをさせてあげる。 見たこともないような冷たい目をしたスザクは、そう言ってなまえを小さな部屋へ連れて行った。 厳重なロックを外して開かれたドアの向こう、ベッドの上に見覚えのある姿を見つけたなまえの目が大きく見開かれる。 「ルルーシュ!?」 簡素な寝台の上にぐっ たりと身を横たえているのは、間違いなくルルーシュだった。 「ルルーシュ! ルルーシュッ!!」 「無駄だよ。暫くは目覚めない」 弾かれたように駆け寄り彼の名を呼ぶなまえに、冷ややかな態度を崩さぬままスザクが淡々と説明する。 「それに、もし目覚めたとしても、皇帝のギアスで記憶を書き換えられたルルーシュには、今までの記憶はない。ゼロとして黒の騎士団を率いていたことも、マリアンヌ様やナナリーのことも、全て忘れているはずだ」 「ひどい……なんて酷いことを…!」 それではルルーシュは二度も母を失ったも同然ではないか。 一度目は襲撃者によって母を殺されたあの日に、そして今度は父親の手によって。 それにナナリーはルルーシュのたった一人の家族だったのに。 彼女が幸せに暮らせる優しい世界を作る為に、ルルーシュは今まで過酷な日々を生きてきたのだ。 それを奪うなんてひど過ぎる。 良く見れば、ルルーシュは白い拘束服のようなものを着せられていた。 ただ今は意識を失っているからか、拘束バンドは外されている。 それでも痛々しい姿であることに変わりはない。 なまえは震える手で、ルルーシュの白い頬に乱れて垂れかかった黒髪を優しく払ってやった。 美しいアメジストは重く閉じられた瞼の裏に隠されたまま。 長い睫毛が肌に落とす影さえもが酷く悲しげに見えて、なまえの胸を切なく締め付けた。 ──心配するな。お前だけは絶対に守ってやる。 謁見の間に連行されていく前、ルルーシュは同じく身柄を拘束されて動けないなまえに、そう言って安心させるように微笑んだ。 あの時に何としてでも──そう、命と引き替えにしてでも止めるべきだったのだ。 なまえの瞳から溢れ出た涙が、ルルーシュの頬にぽとりと落ちる。 「ごめんね…ルルーシュ……守ってあげられなくて…」 その間、スザクはずっとドアの側に佇み黙ってなまえを見つめていたが、やがて再び口を開いた。 「時間だよ、なまえ。もう行かないと」 「…私をどうする気?」 「心配はいらない。これから君はシュナイゼル殿下の保護下に入ることになる。君の身を案じた宰相閣下が皇帝陛下にそう頼んでくれたんだ」 シュナイゼル── その言葉に反応するように、力無く投げ出されていたルルーシュの指がぴくりと動いた。 互いを見つめたままのなまえとスザクはそれに気付いていない。 |