その青いナイトメアと対峙して生きて戻ってきた者達は、口々にこう証言したという。 自分は亡霊と戦ったのだ、と。 『僕が行く』 味方を庇ってナイトメアは半壊。 何とか仲間は逃がしたけれど、最後まで時間稼ぎをしたせいで辺りを敵に囲まれてしまった。 そんな状態で戦場で孤立したなまえからの通信を受けたゼロに対して、凪いだ海のように冷静な声がそう答えた。 実際、ライ以上の適役はいなかっただろう。 頼むとゼロが告げた時には、ライは既に疾風の如く戦場を駆けていた。 「ライ!」 『待っていてくれ。今片付ける』 頼もしいことこの上ない救援を見つけて声を上げたなまえに、ライは早くも最初の一騎を撃破しながら言った。 ランスロットのように一騎で多数を相手にする派手な戦い方ではない。 しかし、ライの月下は恐ろしいほど無駄のない的確な動きで一機ずつ確実に沈めていく。 気付けば、あれだけいた敵はあっという間に全滅していた。 動く者のいなくなった廃墟に佇む青い月下を見て、なるほど、あのルルーシュが頼りにするはずだと、なまえは改めて感心した。 パシュッという音とともにコクピットが開き、シルバーグレイの髪が覗く。 続いてライのしなやかな細身の身体が現れた。 「怪我はないか?」 「大丈夫」 冷たい感じさえ受ける整った顔立ちが綻び、良かった、と穏やかな声が告げる。 ライはコクピットから身を乗り出してなまえへ手を差し伸べた。 「援軍が来るかもしれない。早く皆と合流しよう。窮屈だろうけど僕と一緒に乗ってくれ」 「うん、有難う」 なまえの手を取って、ライがグイと引き上げる。 ルルーシュと同じくらい細いくせに意外と力があるようだ。 月下のコクピットは流石に二人では狭い。 なまえは仕方なくライに促されるまま彼に横抱きにされる形で中におさまった。 まるで見計らったかのようなタイミングで通信が入ったのはその時だった。 『ライ』 ゼロからだ。 『状況は』 「大丈夫だ、ゼロ。なまえなら無事回収して僕の腕の中にいる。怪我もしていないから安心してくれ。これからそちらに向かう」 『……分かった』 答えたゼロの声は普段のものより幾分低かった。 それきりぷつりと切れた通信に、少しからかいすぎたかな、とライが笑う。 「後で怒られるな、これは」 柔らかな口調でそんな事を言って、彼は月下を操って移動を開始した。 きっと、静かに怒りのオーラを漂わせながら仁王立ちで待ち構えているであろう、黒のキングのもとへ向かって。 |