警戒しながら暫く歩いてみたなまえの結論は、ここは式根島ではない、ということだった。 戦闘の気配もない。 戦闘の後の気配もない。 景色こそよく似ているものの、作戦前に確認した地図と微妙に地形が違う。 恐らくは式根島の近くにある無人島の一つなのだろう。 どうして、どうやって、ここに移動したのか、それはわからないけれど。 見渡す限り続く大海原を横に見ながら砂浜を進んでいくと、前方に岩場があるのが見えた。 ──誰かいる…! 岩場に座る人影を発見したなまえは、なるべく足音を立てないよう接近していく。 ある程度近づいたところで、それが半裸の少女であることを確認した途端、なまえは驚きに目を見張った。 向こうもこちらに気が付いたらしく、ピンク色の髪を揺らして少女の顔がなまえのほうを向く。 よく見れば、少女はユーフェミア皇女で、裸身に見覚えのある黒いマントを羽織っていた。 「貴女は……」 「! そこに誰かいるのか!?」 ユーフェミアが背にしている岩の反対側から声が上がる。 岩影からこちらを伺い、なまえの姿を確認したのか、張り詰めていた空気がふっと柔らかくなる。 そこから出てきたのはやはりルルーシュだった。 仮面は外している。 「なまえ! 無事で良かった…!」 ルルーシュは安堵の表情を浮かべて微笑んだが、なまえが強張った顔で、裸にマントを羽織っただけのユーフェミアとルルーシュを交互に見比べていることに気付くと、慌てて弁解を始めた。 「ち、違う、誤解だッ! ユフィが濡れていたから、服が乾くまでの間マントを貸してやっているだけで、お前が心配しているような事態では決してない!」 「そうなんだ」 「そうだッ!」 鈴の鳴るような笑い声が響き、なまえはユーフェミアへと顔を向けた。 マントを胸元で掻き合わせたユーフェミアがクスクスと笑っている。 ルルーシュは険しい顔で一瞬彼女を睨んだが、また直ぐに視線を逸らした。 代わりに低くした声で咎める。 「…ユフィ」 「ごめんなさい、でもルルーシュったら必死なんですもの」 一応謝ったものの、笑いはまだ治まらない。 ルルーシュは苦い物を飲み込んだような顔で溜め息をつくと、改めてなまえを見遣った。 「怪我はないか?」 「大丈夫。ルルーシュは?」 「大丈夫だ」 短いが心のこもったやり取りで互いの無事を確認する。 ルルーシュは、ふっと苦笑めいた笑みを浮かべた。 「どうやら俺達は揃って遭難したらしいな」 「そうだね。でも、ルルーシュと合流出来て良かった。ここに来るまでに誰も見かけなかっ──」 言いかけて、思い出す。 ──そうだ。 もうひとりいた。 倒れている間に消えてしまった誰かが。 でも、どう説明すればいいだろう? そもそも本当に現実の出来事だったかどうかも怪しい。 「どうした?」 怪訝そうに聞いてくるルルーシュに、結局なまえは何でもないと首を振って答えた。 あれはきっと夢だったのだと思いながら。 |