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「必死だな、ルルーシュ」

不意に背後から声が上がり、ルルーシュは不快そうに眉をひそめてそちらを振り返った。

大きめのベッドの上に寝そべって寛いでいる少女。
見かけこそ華奢な造りの肢体を持つ神秘的な美少女といった風情だが、その中身は一筋縄ではいかない相当な曲者である。
ルルーシュはそれをこの短期間の間に嫌というほど思い知っていた。

「そんなになまえのことが心配か?」

「当たり前だ」

「わからんな。普段の生活に差し支えはない、何より今はお前の庇護下にいる。何の問題もないだろうに」

「馬鹿を言え。なまえは自分の名前以外の記憶をすべて失っているんだぞ。それがどれほど不安定な状態かお前にはわからないと言うのか? C.C.」

C.C.と呼ばれた少女は、真っ直ぐルルーシュを見つめたまま、ふっと笑った。

「不安定かどうかはともかく、少なくとも不幸ではないな。自分にべた惚れの男に守られて暮らしているのだから、なまえも満更ではないはずだ」

「話をすり替えるな!」

ルルーシュは苛立たしげに言うと、椅子から立ち上がってC.C.を睨み下ろした。

「お前は……何か知っているんじゃないのか?」

「何かとは」

「なまえの記憶喪失の原因についてだ」

「知らんな。何故私が知っていると思うんだ?」

「お前と言葉遊びをするつもりはない。推測でも憶測でも、何か思うところがあるのなら、今話せ」

C.Cが、ふんと鼻を鳴らす。

「だからお前は童貞坊やだというんだ」

「なっ……」

「いいか、ルルーシュ。記憶というものは必ずしも本人にとって必要なものばかりとは限らない。思い出せないのならば、そのほうがいいということもある。記憶を失うほどのショックを受けたのかもしれないというなら尚更だ」

「…どういう意味だ?」

「さあな──とにかく今はそっとしておいてやれ。私だって心配していないわけじゃない。そこまで冷血ではないからな」

話は終わりだ、とばかりに、C.C.はごろりと寝返りを打ってルルーシュに背を向けた。

ルルーシュもいつもならその程度では引き下がらなかっただろう。
解るような解らないような曖昧な言葉のやり取りでC.C.がルルーシュを煙にまくのはこれが初めてではない。

しかし、語られた内容と、その口調に秘められた何かが、ルルーシュにそれ以上詰問することを躊躇わせた。
言外になまえの為だと匂わされれば、引き下がるしかない。

これ以上C.C.から情報を得られる見込みはないと判断したルルーシュは、パソコンの電源を落とすと、部屋を出た。



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