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「今回は婚約決定から一週間でしたっけ? まったく、殿下もお人が悪い。前回の婚約者がお亡くなりになった時に、もう放っておいてくれと仰れば良かったのに」

「本国のご老人方が煩くてね。いっそ、心に決めた相手がいるとでも言ってやれば大人しくなるのかもしれないが」

「アハ、そんな事を言った日には、『それなら早く連れて来い、一日も早く結婚しろ!』コールが始まるんじゃないですか〜?」

シュナイゼルは緩やかに唇の端を吊り上げて微笑んだ。

「君も他人事ではないよ、ロイド。アスプルンド伯爵は一日も早く身を固めるべきだという周囲の声が聞こえてこないわけではないだろう?」

「さすが殿下、お耳がはやーい。でもあれは殿下のご縁談と違って、結婚すれば変わり者の伯爵も落ち着くだろう、なーんていう理由かららしいですけどねぇ」

「もっともな意見じゃないか。しかし、そうなると、相手は相当しっかり者の女性でなければ務まりそうもないな」

ロイドがアハハと笑う。
しかし、「それで」と切り出した瞳には、不可思議な輝きが宿っていた。

「わざわざ特派まで足を運ばれたご用件はなんでしょう?」

「人が悪いのはお互い様だね──とっくに分かっているんだろう?」

「まあ…何となくは」

ロイドは苦笑した。
こんな時、察しがいいというのも困りものだ。
シュナイゼルが自分に何を頼もうとしているか、ロイドには彼がここにやって来た時からわかっていた。

「なまえのことだよ」

シュナイゼルの笑みが深くなる。
凡庸と噂される第一皇子にはない、何か寒気を誘うような威圧感というか──絶対に命令を聞き入れなければならないという気にさせる、そんな力のある声だった。
それでなくとも、特派の存続の鍵はこの男が握っているようなものなのだが。

「手伝ってくれるね、ロイド?」

無論、断れるはずがない。
ロイドは肩を竦めた。

「仰せのままに」

なまえに恨まれることになるかもしれないが仕方がない。

(可哀想に…なまえちゃんも厄介な人に気に入られちゃったねぇ)

ロイド自身も少なからずなまえを気に入っていたのだが、目の前にいる男が彼女に寄せるそれには到底及びもつかないだろう。
なまえに対するシュナイゼルの執着と恋情は、ロイドから見てもいっそなまえが気の毒に思えるような類いのものだったからだ。
ただ、シュナイゼルがなまえを本国に連れ帰ってしまうと、彼女の作ったプリンが食べられなくなるだろうことが、今はひたすら残念でならなかった。



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