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地獄で働く事になって三日目。
まだまだ知らない事が多い。

亡者である私と普通の獄卒の鬼とでは勝手が違うとかで、初日からずっと鬼灯様が付きっきりで面倒を見てくれている。
まだあまり上司と部下といった感じではなく、どちらかと言えば、勉強を教えてくれる家庭教師のような感覚だ。

「さて。食事休憩にしましょう」

「はい」

鬼灯様について食堂へ向かう。この閻魔庁にも社員食堂があるのだ。
最初はびっくりした。
普通の会社みたいで。
カウンターがあって、トレイに乗せた食事を自分でテーブルに持っていくとか、本当に普通の会社の社員食堂みたいだ。
内装もそれっぽい。

「あんまりそわそわしないで下さい。まったく、貴女はいつでもキョロキョロと…」

「なんかどっかで聞いたことある!」

鬼っ娘の宇宙人と浮気性のダーリンのアニメの主題歌じゃないか。
鬼が知っていたからというより、この人が知っていたことに驚きだ。

「地獄でも人間界のテレビって見られるんですか?」

「見られますよ。ほら、あそこにもあるでしょう」

「あのテレビはてっきり地獄のローカル番組専用なのかと…」

「地獄の番組もありますけど、現世の番組のほうが人気ですよ。私は好きですね。特に世界のミステリーをハントする番組などは毎週欠かさず見ています」

「おおお…」

じゃあ、鬼灯様の執務室にあったクリスタル製のアレはやっぱりアレだったのか。凄い。

「そんなことより、さっさと食事を頼んでしまいなさい。食べる時間がなくなりますよ」

「あ、はい」

私と鬼灯様はそれぞれ丼物を注文してテーブルについた。

身長も体格も良い鬼灯様は、結構大食いだ。
今も私の倍はある大きさのカツ丼をもぐもぐ食べている。

「貴女、甘い物は好きですか」

「はい、好きです」

「それなら今度甘味処に連れて行ってあげましょう。今やってる課題がきっちり出来たらの話ですが」

「ご褒美ですね!」

「ご褒美です」

鬼灯様の手が伸びてきて、何かと思ったら、私の口の端についていたらしいご飯粒を指でひょいとつまんでぱくっと食べてしまった。

「ほらほら、箸が止まってますよ」

「は、はいっ」

赤くなりながら丼をかき込む。
鬼灯様は普通に食べ続けているし、どんな顔をすればいいの…。

「なまえさん、味噌汁は好きですか」

「え、あ、はい」

「それは良かった。今度ご馳走しますよ」

「鬼灯様が作って下さるんですか!?」

「私が作るのでは不満ですか?」

「いえっ。ただ、ちょっと意外だったので…お料理出来るんですね、鬼灯様」

「永らく独り身なので一通りの家事は出来ます」

「凄いです!楽しみだなぁ、お味噌汁!」

「美味しく食べて貰えたら私も嬉しいですよ」

うふふ、と笑って私はコップの水を飲んだ。

その時は知らなかったのだ。
まさか、鬼灯様の言う味噌汁が普通の味噌汁じゃなかったなんて。
そして、それを飲める人が鬼灯様の理想の女性だったなんて。
それを飲んで褒めた瞬間から、鬼神が猛チャージをかけてくることもさっぱりわからなかった。

この時の私は、地獄のカツ丼も悪くないなぁなんて思いながら鬼灯様の素敵なお顔にただみとれていたのだった。


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