室内は暗い。 先ほどまで満ちていた熱気がまだ昏く淀んで残っていた。 雑多に物が置かれた部屋のベッドの上には一組の男女の姿があった。 男は鬼灯。 女はなまえ。 なまえはまだ眠っている。 鬼灯は暗闇に白く浮かび上がる素肌に緋色の襦袢を纏って布団に寝そべり、煙管に手を伸ばした。 吸い口を咥え、紫煙をゆったりと昇らせる。 そうして暫く紫煙をくゆらせていると、後ろでもぞりと動く気配があった。 「起きましたか」 振り返って言えば、まだこちらは生まれたままの姿に鬼灯の着物を掛けられていたなまえが、恨めしそうに鬼灯を見上げて小さく呻いた。 首筋や鎖骨の辺りに浮いた紅い痕が生々しい。 言うまでもなく鬼灯がつけたものだ。 「腰が痛いです…」 「でしょうね」 濃厚な情事の名残を纏わせた恋人の言葉に鬼灯は平然と頷き、そちらへと向き直った。 涅槃像のように右手で頭を支えて横たわる。 表情はいつものまま。 切れ長の瞳にほんの少し意地悪な光を湛えて、すうと細めてみせる。 「散々いじめましたから」 「ひどいです…!」 もっと優しくしてくれてもいいのに、とぼやくなまえに、鬼灯は「優しくしてあげたでしょう」と返した。 「充分過ぎるほど時間をかけて指と舌で慣らして下拵えをした上で、じっくり、たっぷり、美味しく頂いたじゃないですか」 「そ、それはっ…」 「こんなに親切な男をつかまえて、一体何が不満なんですかねぇ」 ふう、と紫煙をはきだして言えば、なまえはうっすらと涙を浮かべた瞳で鬼灯に訴えた。 「た、確かに時間はかけてくれましたけど、それは焦らしていたからで、もう許して下さいってお願いしても許してくれなかったじゃないですかぁ…!」 「それはそれで貴女も楽しんだでしょう。気持ちよくありませんでしたか?」 「よ……………よかったです…けど…」 「ならいいじゃないですか」 お互い楽しんだということで。 なまえは納得いかないながらも、それ以上文句を言ってくることはなかった。 容易いものだ。 こんな風に簡単に丸め込まれてしまうから良いようにされてしまうんですよ、と心の中で呟いて、なまえに口付ける。 柔い唇はくすぶっていた雄の欲望を再度煽るには充分なもので。 またしても頭をもたげたそれをおくびにも出さず優しい言葉をかけてやる。 「さあ、お風呂に入って来なさい。それとも一緒に入りますか?」 「…一緒がいいです」 「じゃ、洗ってあげましょう」 内心ほくそ笑みながら鬼灯は裸のなまえを抱き上げた。 |