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浴室のドアが開くと、中から清潔な甘い香りと共に白い湯気がほわっと吹き出した。
その湯気に包まれて出て来たのは鬼灯だ。
腕にはなまえを抱えている。

「ほら、なまえさん」

「……ん……」

くったりと力の抜けきった様子を見た鬼灯は、やれやれとタオルを手に取り、なまえの身体から水分を拭き取ってやった。
彼女がこうなったのは自分のせいだという自覚があるので、こうして世話を焼いてやるのもやぶさかではない。

「まだ寝ないで下さいよ」

「はぁい…」

かぼそい声で返事をかえしたなまえに下着を履かせ、襦袢を着付けてやる。

淡く色づいた肌には、貪り尽くした名残の痕が幾つも刻まれていた。
それに奇妙な満足感を覚えながら自身も身支度を終えた鬼灯は、再びなまえを抱え、寝台へと運んだ。
自室に帰してやるつもりは毛頭無かった。

されるがままの柔らかな肢体を寝台に横たえて、自らもその隣に身体を滑り込ませる。
一人用の寝台は二人では少し窮屈だが、なまえの身体を腕に抱き込むようにしてしまえばその狭さも気にならない。

「なまえさん」

「…んん」

髪を梳き、口付けてやれば、半ば眠りの中にありながらも健気に応えてくる。

「少し無理をさせすぎましたかね」

そう言う口振りには反省の色はない。
むしろ、心ゆくまで堪能し尽くして満足していた。

寝台で三回、浴室で二回。
これ以上されたらふやけちゃいます…というのが、最後になまえが発する事が出来たまともな言葉だった。
後はひたすらあんあん鳴かされて、途中で何度か意識を飛ばしたお陰で今はこの有り様である。

淡白そうに見えるらしいが、自分は完全に肉食だと鬼灯は自認している。
桃源郷のあの淫獣には、涼しい顔しているが夜になれば股間の金棒が大暴れするんだろうと妙な絡まれ方をして閉口したものだが、あながち的外れな邪推でもなかった。
今夜も、いつもはこういった事に奥手ななまえに、恥じらいながら「誘ってもいいですか?」とおずおずと尋ねてくるものだから、ついつい股間の金棒が大暴れした。

「…なまえ」

耳元で囁かれた甘いバリトンに、なまえの身体がぴくりと反応する。
無意識に身をすり寄せてくるなまえを抱きしめながら、鬼灯は深い満足感に浸っていた。

「愛していますよ、なまえ」

完全に意識がないのを確認してから、なまえの耳に囁きかける。

見られなくて良かった。
今の自分は、きっと、オーストラリアでコアラを抱っこしていた時よりも緩んだ顔をしているはずだから。

明日の朝起きればいつも通りの表情で、「いつまで寝ているんですか」となまえを起こしてやらなければならない。

だから今だけは。
優しく優しくなまえの背中を撫でて、鬼灯はそっと瞳を閉じた。


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