幸か不幸か、私と鬼灯様が現世に視察に赴いた当日、首都圏は強烈な寒波の影響で大雪に見まわれていた。 窓から見る町は全てが白く覆い尽くされており、こうしてガラス越しに眺める間にも、びゅうびゅうと吹雪いて、ぼたん雪が舞い飛んでいる。 「鬼灯様!雪ですよ雪!こんなにいっぱい!」 「雪なんて珍しくもないでしょう。八寒地獄に行って来なさい」 「そんな死と隣り合わせの過酷な環境じゃ楽しめないじゃないですか!そうじゃなくて、雪だるま作ったり、雪合戦したりとかして楽しみたいんですよ!」 「お子様ですね」 鼻で笑われた──気がする。表情は変わってないけど。 どうせお子様ですよ。 大人な鬼灯様は、現世視察の日程に影響が出る事を懸念しているようだ。 事実、この様子では今日は予定していた亡者ハンティングには行けそうにない。 交通網が麻痺しているせいで思うように動けないのだ。 仮初めの住居として選んだこのマンションの一室に缶詰めになっていた。 「いいじゃないですか。久しぶりのお休みだと思えば。今日はゆっくりしましょう」 「…仕方ありませんね」 小さくため息をついた鬼灯様が、私の真後ろに立って窓の外へ目を向ける。 「これで喜ぶのは犬と子供ぐらいのものですよ」 「一面真っ白だから、こうしていると二人きりで閉じ込められたみたいですね」 「閉じ込められたいんですか」 「られたくないです!」 私は急いでぶんぶん首を横に振った。 いま、目が怖かったです鬼灯様。 「まあ、動けないのは事実ですからね」 「そうですよ。時間はたっぷりありますから、ゆっくりしましょう」 私の肩に乗せられていた鬼灯様の手が二の腕を滑り降りて脇腹の辺りをするりと撫でる。 ただ撫でたんじゃない。 明らかに、そういう意図を持って、だ。 「ほ、鬼灯様…」 「貴女の言う通りです」 耳元で囁きかけられたバリトンボイスが鼓膜と背筋を震わせる。 脇腹を撫でた手は、今度は上にあがって両の胸の膨らみを包み込んだ。 じわりと力が加えられ、やわやわと揉まれて、脈打つ鼓動が鬼灯様の手の平に伝わる。 「時間はたっぷりある。ゆっくりシましょう。なまえさん」 |