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…ヤッてしまった。

お酒の勢いで気が大きくなっていたせいだ。
その自覚はある。

「……うわぁ……どうしよ……」

私は寝台の上で頭を抱えた。

隣の部屋からはハミングする声が微かに聞こえてくる。
そこは入った事のない部屋だった。
いつもの薬局、つまり玄関がある部屋へのドアは別にある。
…今の内にそっちから外に逃げるのは有りだろうか。

とりあえず服を着よう。
下着を履き、襦袢を身に付け、着物を羽織ったところでドアが開いた。

「おはよう、なまえちゃん」

入って来たのはもちろん白澤様だ。
もうハミングはしていないが、見るからに上機嫌だった。

「あれ?もう着替えちゃった?まだゆっくりしてて良かったのに。でも、丁度良かった、お粥作ったから持って来るよ」

待ってて、と言い置いて部屋を出て行った白澤様は、すぐに両手でお盆を持って戻ってきた。

「薬膳粥だよ。昨日沢山飲んでたからね、二日酔いでしょ。頭痛がしてるんじゃない?」

私は素直に頷いた。
実は目覚めた時からずっきんずっきんしている。

「熱いから気をつけて。僕がふーふーしようか?」

「だ、大丈夫ですっ」

白澤様からお盆を受け取って膝の上に乗せ、湯気をたてる器の中身を匙で掬う。
細かく刻んで入れられているのは松の実かな。
軽く吹き冷ましてから口に運ぶと、薬味の効いた優しい味が口の中に広がった。
きっとお腹にも優しいのだろう。

「美味しい…」

「良かった。全部食べられそう?」

「はい。大丈夫だと思います」

「そっか。ゆっくり食べるんだよ」

頬杖をついてにこにこしながらこちらを見守っている白澤様にドキドキしながらも、何とか全部食べ終えることが出来た。

「うん、全部食べられたね。えらいえらい」

白澤様に頭を優しく撫でられる。

「じゃあ、お風呂に入っておいで」

「お風呂?」

「温泉。裏にあるんだ。あ、一緒に入りたい?」

ぶんぶん首を横に振ると、白澤様は「残念」と肩をすくめた。

「じゃ、それは今度のお楽しみということで」

再びぶんぶん首を横に振ると、白澤様は「えー」と不満そうな顔をした。

「遠慮しなくていいのに。隅々まで綺麗に洗ってあげるよ?」

「い、いいですっ!」

「まだ恥ずかしい?あんなことやこんなことまでしちゃった仲なのに?」

私は再び頭を抱え込んだ。
そうだ。
あんなことやこんなことをヤッてしまったのだ。
この人にだけは引っかからないよう気をつけていたのに、お酒で気が緩んだところに優しくされて、コロッといってしまったのである。

「とにかく入っておいでよ。はい、タオル」

「あ、有難うございます」

「覗くのもダメ?」

「ダメです!」

「まあ、もうじっくり見ちゃったけどね」

「!!!!」

「はい、行ってらっしゃい」

耳まで真っ赤になった私に、にこやかに笑いながら白澤様がひらひらと手を振る。

もう!だからこの人にだけは引っかかりたくなかったのに…!!

「愛してるよ、なまえちゃん」

甘く蕩けるような優しい声から逃げるように部屋を出た。

温泉は露天風呂みたいでとても気持ち良かったけど、これから先の事を考えると悩みは尽きない。
本当に、どうしよう…。


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